和歌と俳句

角川源義

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白馬ばかり朝焼けゐるよ雪野果て

鴉ども裾野に遊ぶ雪解水

雪解水田にあふれをり大鴉

はだれ野や日輪すでに光りなし

冬浜に光りはあれど松風や

春雷の湧きても湧きても師を思ふ

真二つに木の根割られぬ雪鴉

雪しんしん時計は我をあざむかず

焼畑に鴉ついばむ雪降り来

大鴉朝虹を飛ぶ枯野かな

花冷えや時計は刻をあやまてり

現なく日輪しろき郁子咲けり

しはぶきの身近に木瓜のこぼれけり

木賊鋭き昼を疲れて風光る

師に眼鏡雪山照らす木瓜の花

起伏の丘みどりなす吹流し

のぼり来て富士失ひぬ花胡桃

のぼり路の足音かたし花胡桃

茅野の花紅きは八十八夜なり

春昼の手鏡つくる病者かな

躑躅燃ゆ手の冷え伝ふ昼の刻

林檎咲く病者を置きて戻り来れば

父焼けぬ煙りも絶えし花田原

みどり野は父なき我に暁けゆけり

旅ゆけば我招くがに擬宝珠咲く

かなかなや少年の日は神のごとし

栗咲くや担送車に夜来る

梅雨けしや田川に放つ袂糞

父埋めて帰れば松のみどりなす

みどりなす松や父なき子の夕餉

みどりなす松や母子は国を出づ

まひまひや父なき我に何を描く

朝の蟇ものを思ふは我のみか

海光や白き浴衣は妻ならめ

夏草や鴉は墓より海に出づ

夏草や家より高き海の容

雷雲や少年立志の日もありし

盆の海親知らず子知らず陽の没るよ

煙草火を母にゆだねてわかれ蚊帳

父祖の地や蜻蛉は赤き身をたるる

穂芒の白き土蔵は一茶の地

信濃柿赫し敗兵の日を思ふ

韮咲くや空かたあかり鷺飛べり

夜の秋餌を欲る五位の騒然と

韮咲くや夫呼ぶらしも月の鷺

芋の露しみみに鷺の夫恋ふか

芋の露見沼野わたる鷺の声

韮の花鷺群立つと暁けゆけり

柿青し夫呼ぶ鷺は頸をのべ

芋畑に白日燦と鷺舞ひ来

炎昼や白鷺妻とくちづけす

秋立つや日にただよひつ鷺消えぬ

月落ちて物の怪めくや鷺の声

見沼野に鷺群立つよ朝の月

見沼野や茶の実もかたく鷺わたる

炎昼や餌を欲ふ鷺の嘴みがく

子らの唄蓮田にこぞる冬の日よ

帝王の夢枯野鴉のただよへり

冬鴉焦土に歌声おこる

烏瓜沼へ傾く午の道

花八ツ手高々と日の吹かれをり