和歌と俳句

栗の花

むせかへる花栗の香を蝶くぐる 普羅

飛騨蒼し花栗かをり繭匂ふ 普羅

栗の花の脚の長さは尚ほ仔馬 草田男

花栗の伐らるる音を身にし立つ 多佳子

月燦々樹を伐られたる花栗に 多佳子

花栗の枝ふりかぶり斧うちうつ 多佳子

夜の塔あるべき方や栗の花 三鬼

黒南風や栗の花紐垂りしづる 亞浪

山雲の野に下りしより栗の花 秋櫻子

高尾なる雲の渦見ゆ栗の花 秋櫻子

栗の花に夕焼のぼり亡き母恋ふ 知世子

西方に師のをり栗の花くぐる 不死男

栗咲く香血を喀く前もその後も 波郷

稀にして朝日を拝む栗の花 秋櫻子

首太くなりし夜明の栗の花 三鬼

花栗に寄りしばかりに香にまみる 多佳子

ゴルゴダの曇りの如し栗の花 静塔

眉濃ゆき妻の子太郎栗の花 欣一

栗咲いて林のはづれ撓みたり 秋櫻子

雨近き蝶の狂へり栗の花 源義

赤ん坊に少年の相栗の花 欣一

栗の花呼び合い犬は犬呼ぶ夜 三鬼

栗咲くや担送車に夜来る 源義

花栗のちからかぎりに夜もにほふ 龍太

花栗の香に嬉嬉として村を去る 龍太

栗咲いて風雨の森に鮮らしき 秋櫻子

花栗や天のどこかにいなびかり 悌二郎

栗の花われを見抜きし犬ほゆる 三鬼

花栗に一川の澄み二川の濁 龍太

花栗にたちまさりたる夜の霧 蛇笏

花栗の白き土蔵の町に入る 源義

栗咲く香怨み憎みて果忘れ 悌二郎

降り出してけぶりて栗の花乱す 林火

栗の花仰臥もつとも息苦し 波郷

栗の花林掠むる如くなり 波郷

栗の花ふり乱すなり多佳子の忌 静塔

栗の花匂ふ衣紋をすこし抜き 静塔