和歌と俳句

水原秋櫻子

十月の風雨明けゆく雨蛙

深山茸わが盃に酒あふれ

更けてよりあはれ大雨の十三夜

落葉飛び蟷螂も高く翔けわたる

枯れしもの夜半をつぶやき雨いたる

山茶花や生れて十日の仔牛立つ

綿虫やむらさき澄める仔牛の眼

いつ敷きし雪ぞ峠の落葉季

一輪の霜の薔薇より年明くる

いたむ膝あきらめ居れば梅ひらく

山茱萸に疾風雲立つその暗さ

龍の角落ちて土筆の生ひにける

菜の花の一劃一線水田満つ

来て翼やすむる去年の蘆

碧天や喜雨亭蒲公英五百輪

山櫻雪嶺天に声もなし

巌壁下うぐひす終に声を絶つ

櫻ちり梨のみ匂ふ薄暮なり

残雪も夜空にしろし梨の花

栃の芽の光とならぬ靄深し

種下ろす足山影を穿ちけり

朝寝して鏡中落花ひかり過ぐ

飛燕鳴き山村五月事多し

咲いて風雨の森に鮮らしき

梅雨夕焼初ひぐらしもまた淡し