和歌と俳句

水原秋櫻子

寒鯉の美しくしてひとつ澄めり

寒鯉はしづかなるかな鰭を垂れ

寒鯉を真白しとみれば鰭の藍

除雪車の力尽きてはいこふ駅

除雪車のきらめく燈にもつもる雪

除雪車を降り埋めんと雪舞へり

除雪車にあかつきの天暗かりき

大雪のスキー列車の夜をいねず

雪の山夜空をせばめ立ち並ぶ

湯檜曾橋膝をうづむる雪積めり

谷の温泉の灯はくらけれど雪明り

雪の瀬に獲たる魚ぞと爐に焼けり

古き機ふるき燭置き機始

雪袴つけたるひとの機始

青天の吹雪わたれりスキー行

橿鳥のこぼす粉雪の光り舞ふ

四方の山夕ばえきたり雪凍てぬ

野いばらを引き捨てありぬ芽ぐめるに

雑木山芽立つ景色の田に映り

海あれぬ春日空にくもらねど

雲雀鳴けり荒磯の径をゆきければ

風搏てる麦生に居りて鳴く雲雀

掻きひろげかじめを干せり学び舎に

かじめ踏みけふ卒業の子は行きぬ

よき袴かじめに濡れて子は行きぬ