萩咲くや堰に近づく水の上
窯焚けばあらしとなりぬ月の夜を
鴨あまた一夜に下りぬ散紅葉
丘の松めぐりてひと日麦を踏む
雨はれて山家の燕畦にをり
鶺鴒の来る石ありて若楓
山雲の野に下りしより栗の花
鰺干すや松葉牡丹のかたへより
髪撫でてうなじの日焼あはれなる
柿あかき野に生ひ立てよまた会はむ
服しろき面影のこれ鳳仙花
歌を読み心匂へり菊のまへ
不二澄めりくぬぎ林は野に枯れて
初富士の海より立てり峠越
磯の香にむかひて行けば夜の梅
あめつちのうららや赤絵窯をいづ
藤咲きぬ林あかるく風あふれ
夏蝶の息づく瑠璃や楓の葉
をだまきや山家の雨の俄かなる
高尾なる雲の渦見ゆ栗の花
おもはざるむかしがたりや田植時
翡翠の巣かけしあとや葛の花
門とぢて良夜の石と我は居り
十六夜や鉢なる蓮の露こぼれ
立待の夜を降りいでて萩しろし