和歌と俳句

麗か うららか

家持
うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しもひとりし思へば

うららかや女つれだつ嵯峨御室 子規

左千夫
新芽立つ山さの松の枝高みまつめ来鳴くも日のうららかに

雲うらら敷浪を又砂子かな 碧梧桐

わしが城と川舟唄もうららかに 碧梧桐

線路あさる鴉ありうらら汽車待てば 山頭火

うらゝかや蜘蛛の糸と光るたこの糸 石鼎

うららかに波は膨れて遊びけり 茅舎

船橋の舟を数へてうららかな 茅舎

麗かにしるす参宮日記かな 万太郎

麗かや紙の細工の汽車電車 万太郎

麗かや枳殻垣と捨車 万太郎

行合うて隔たる堤うららかな 汀女

うらゝかや行く山径を疑はず 橙黄子

うらゝかや空に留まれる気球船 花蓑

千樫
ここにしてわが立ち見れば安房上總うららかに起き伏しにけり

ゆくわれにかくるる嶺あり麗に 禅寺洞

うららかや見えてよりたる唐船碑 禅寺洞

麗かや大荷物をおろす附木売 普羅

麗かや砂糖を掬くふ散蓮華 茅舎

麗かや松を離るる鳶の笛 茅舎

明らかに花粉とびつぐうらゝかや みどり女

梳る髪の長さもうらゝかに 淡路女

おもむろに鶴歩み出づうらゝかな 淡路女

うらゝかや珊瑚が目立つ貢物 喜舟

葉がない雲がない空のうららか 山頭火

うららかにして腹がへつてゐる 山頭火

うららかな、なんでもないみち 山頭火

山羊もめをとで鳴くうららかな日ざし 山頭火

うらゝかや朱のきざはしみくじ鳩 久女

うらゝかや斎き祀れる瓊の帯 久女

芝うらら遥かのクラブ光りけり 草城

うららかな朝のトーストはづかしく 草城

うらゝかの幼子ころび泣きにけり 淡路女

うらゝかな硯を洗ふ 山頭火

草のうらゝかさよお地蔵さまに首がない 山頭火

うららかに一年まへを語りけり 万太郎

風の音杜にあれども丘うらゝ 

朝うらら指紋もあらぬ卓の面 草城

陽うらら珠みだれたる算盤に 草城

松の曲麗日雪に遍照し 茅舎

芒枯れ細りきつたる麗かさ 茅舎

浦人の千鳥を知らぬうらゝかや みどり女

はるばると足あと見えて海うらら 石鼎

砂に這ひ砂に起ち海の麗さに 石鼎

ぬりかふる刷毛よりうららはじまりぬ 石鼎

難破船鴎とまらせうららかに 青邨

あめつちのうららや赤絵窯をいづ 秋櫻子

麗日の来書の一つ措きて出ず 悌二郎

うららかに波は膨れて遊びけり 茅舎

船橋の舟を数へてうららかな 茅舎

棕櫚の葉に雀二羽載る二羽うららか 林火

麗かにふるさと人と打ちまじり 虚子

玉と呼び絹と称ふ島波うらら たかし

あと追へるひよこにすくむ子よ麗ら 亞浪

煙れるもさらぬも塩屋うららかに たかし

うららかなけふのいのちを愛しけり 草城

うららかや猫にものいふ妻のこゑ 草城

祖母立子声麗らかに子守唄 虚子

うららかや雀ひばりに鳴きまじり 草城

うらゝかや話やめては僧掃ける 立子

うららかにきのふはとほきむかしかな 万太郎

うららかや三保を指す風見の矢 風生

うららかやころばぬさきの杖をつき 万太郎

うららかに蒔かぬ種さへ生えにけり 万太郎

うららかやきらりとすぎし何のかげ 万太郎

麗や鶴にとさかのなきことも 鷹女

うららかや森を漕ぎ出し軟体魚 鷹女

天下禅林麗らに暗き朱塗輿 悌二郎

一舟の手がかりもなき沖うらら 風生

うららかや空より青き流れあり みどり女