家持
春の野に霞たなびきうら悲しこの夕影にうぐひす鳴くも
家持
我がやどのい笹群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも
西行
ながめつるあしたの雨の庭の面に花の雪しく春の夕暮
定家
かげたえて下行く水もかすみけり浜名のはしの春のゆふぐれ
実朝
ながめつつおもふもかなし帰る雁ゆくらむかたの夕暮れの空
蕪村
等閑に香かく春の夕かな
蕪村
春の夕たへなむとする香をつぐ
召波
端守の銭かぞへけり春夕
子規
うつくしき春の夕や人ちらほら
虚子
金殿に灯す春の夕かな
子規
何として春の夕をまぎらさん
子規
一人ゐる春の夕の醉ざめに茶をかぐわしみよき菓子くひけり
漱石
鳩の糞春の夕の絵馬白し
子規
うたた寐に風引く春の夕哉
晶子
経はにがし春のゆふべを奧の院の二十五菩薩歌うけたまへ
晶子
そと祕めし春のゆふべのちさき夢はぐれさせつる十三絃よ
牧水
うなだれて 小野の樹に倚り 深みゆく 春のゆふべを なつかしむかな
牧水
仁和寺の 松の木の間を ふと思ふ うらみつかれし 春の夕ぐれ
晶子
かけひより青銅の壼に水おつる音をおもひぬ春の夕ぐれ
晶子
七つの子かたはらに来てわが歌をすこしづつ読む春の夕ぐれ
晶子
浅みどり柳の枝の中行ける紺のきものの春の夕ぐれ
啄木
宗次郎に おかねが泣きて口説き居り 大根の花白きゆふぐれ