われと歌を われといのちを 忌むに似たり 恋の小車 絃さらに巻け
数の罪の 名知らばとくに 老いぬべきを 長しと愛でし 髪よ幾とせ
枕それし 昼のかりねの 夢や夢 恋する人に 春雨ぞ降る
沢瀉は 少女の櫂に のりこしぬ 君が酔歌の 七尺小舟
めしひなれば 道と誨へで 往かしめよ おどろ変じて 百合となる門
おもはずや 漏るれば髪の やはらかき 雨ふる春を 道にやつるる
君さらば さらば二十を 石に寝て 春のひかりを 悲み給へ
御僧追ひて きせかけまつる わが小傘 すすきに白き 夕雨の秋
鸚鵡うちし 紅水仙の 花の萎へ かごとの朝の 人と鳥と見る
瀬田いでて 宇治に流るる 春のみづ 柳ながうて 京の子みえぬ
恋に老いし 神のぬけ羽の 身はここに 小羊君が 檻の幸よむ
池におちて 紅きが多き おちつばき 鷲鳥かひにし 家の岡崎
海に入りて 海にさくべき 春の君と 或ひと見たる 白牡丹の花
手に満ちては 幸に泣きしを 人も知るや 矢おひし笑みぞ 詩に不如意無き
草ちかう よき蚊帳たれし 竹の椽 妻に真白の 扇ゆるさぬ
友は人に 摘まれぬ我は たふとくて 聖の宮居に いつかれ白百合
旅のきみ 君あさ髪の 裾によれ 露のさむきに 誰ぞ君をやる
妻わかうて 京のなまりの 失せがたな 二条に似たる 街の春の夜
尼の君に 水しら蓮の 夜あけ舟 京の几董が 詩のけしきかな
春むかし 夢に人見し 京の山の 湯の香に似たる 丁子の小雨