和歌と俳句

與謝野晶子

あな恋し琥珀の色の冬の日の中に君あり椿となりて

わが子等を鳥のたぐひに思ひつつこの砂山に集ひ来と待つ

茅が崎の松の間に四五寸の麦植ゑられて春風ぞ吹く

春の日の明るき方を後ろにし柱ならびぬ人の如くに

正月は馬の蹄の音もよし間近にものの本繰るもよし

正月の炉に寄るここち限りなし一人なりせばさては知らねど

ささやかに雲立ちのぼる少女子の羽子の板より雲立ちのぼる

正月に紅の帯負はぬこと少し恨めど歌などを書く

くろ髪の余り清くて憎き子もわれも突くなる羽子の音かな

友染をなつかしむこと限りなし春の来るため京思ふため

くれなゐの小き杯たまはれば椿の花のここちして取る

正月の家と家との間より尾振りて来れば犬もめでたし

都辺の玉を敷くてふ路よりも白くめでたき正月の箸

目のまへに春の来りし喜びの外に唯今何ごとも無し

正月の二日の朝に櫛とりてうらなつかしき黒髪を梳く

うす白き門の口見ゆ元日のわがつれづれに障子明くれは

春立つをよろこぶ人に似る霰少し落せる正月の空

ふさがれて流れざる水わが胸に百年ばかりあるここちする

は憂し木立も上の大ぞらも牛の角かと思ふ色する

思ふ人姿を借りて恋しやと云はしむるごと春の雪降る

いく筋の黄の帯のごと日の射しぬ雪解の音の今立ちぬべし

雪の日の門の口より見ゆるなり黒くめでたき馬の前脚

傘さして去にたる人を憎みけりその雪の傘うつくしきため

うぐひすや石の浴槽のここちするましろき閨の春のあけがた

夜のここち重く苦しく朝ごこちきはまりもなく浮き立つ春は