春の鳥 な鳴きそ鳴きそ あかあかと 外の面の草に 日の入る夕
銀笛の ごとも哀しく 単調に 過ぎもゆきにし 夢なりしかな
しみじみと 物のあはれを 知るほどの 少女となりし 君とわかれぬ
いやはてに 鬱金ざくらの かなしみの ちりそめぬれば 五月はきたる
葉がくれに 青き果を見る かなしみか 花ちりし日の わが思ひ出か
ヒヤシンス 薄紫に 咲きにけり はじめて心 顫ひそめし日
かくまでも 黒くかなしき 色やある わが思ふひとの 春のまなざし
君を見て びやうのやなぎ 薫るごとき 胸さわぎをば おぼえそめにき
南風 モウパツサンが をみな子の ふくら脛吹く よき愁吹く
南風 薔薇ゆすれり あるかなく 斑猫飛びて 死ぬる夕ぐれ
凋れゆく 高き花の香 身に染みつ 貧しき街の 春の夜の月
寝てきけば 春夜のむせび 泣くごとし スレエト屋根に 月の光れる
たんぽぽに 誰がさし置きし 三すぢほど 日に光るなり 春の三味線
ゆく水に 赤き日のさし 水ぐるま 春の川瀬に やまずめぐるも
白き犬 水に飛び入る うつくしさ 鳥鳴く鳥鳴く 春の川瀬に
一匙の ココアのにほひ なつかしく 訪ふ身とは 知らしたまはじ
黒曜の 石の釦を つまさぐり かたらふひまも 物をこそおもへ
薄あかき 爪のうるみに ひとしづく 落ちしミルクも なつかしと見ぬ
寂しき日 赤き酒取り さりげなく 強ひたまふにぞ 涙ながれぬ
あまりりす 息もふかげに 燃ゆるとき ふと唇は さしあてしかな
くれなゐの にくき唇 あまりりす つき放しつつ 君をこそおもへ