薄野に 白くかぼそく 立つ煙 あはれなれども 消すよしもなし
朝ぼらけ 一天晴れて 黍の葉に 雀羽たたく そのこゑきこゆ
絡駅と 人馬つづける 祭り日の 在所の見えて 白蓮の花
ほのぼのと 白馬が曳かれて 濁り川 濁れる水に 口つけに来る
飛びあがり 宙にためらふ 雀の子 羽たたきて見て居り その揺るる枝を
飛びあがり 宙に羽たたく 雀の子 声立てて還る その揺るる枝に
葛飾の 真間の継橋 夏近し 二人わたれり その継橋を
葛飾の 真間の手児奈が 跡どころ その水の辺の うきぐさの花
住みつかぬ 山の庵は けうとけど まだそぞろなり 一日二日は
堪へがてぬ 寂しさならず 二人来て 住めばすがしき 夏立ちにけり
蕗の葉に 亀井の水の あふるれば 蛙啼くなり かつしかの真間
おのづから 心安まる すべもがと 寂しき妻と 野に出でて見ぬ
鳰鳥の 葛飾小野の 夕霞 桃いろふかし 春もいぬらむ
この妻は 寂しけれども 浅茅生の 露けき朝は 裾かかげけり
草の葉に 生れしばかりの 露の泡 蛍はいまだ 光りえなくに
山ゆくと 妻をいたはり ささがにの いぶせき糸も 我は払ひつ
たまさかに 来り眺めし 山の池 早や美くしう 水草生ひにけり
かろがろと 雀飛びつき 小枝の揺り 揺りもやまねば 下覗き居る
香ばしく 寂しき夏や せかせかと 早や山里は 麦扱きの音