和歌と俳句

高市黒人

万葉集・巻第一
古の人に我れあれや楽浪の古き都を見れば悲しき

万葉集・巻第一
楽浪の国つ御神のうらさびて荒れたる都見れば悲しも

万葉集・巻第一
いづくにか船泊すらむ安礼の崎こぎ回み行きし棚無し小舟

大和には鳴きてか来らむ呼子鳥象の中山呼びぞ越ゆなる

万葉集・巻第三
旅にしてもの恋しきに山下の赤のそほ船沖に榜ぐ見ゆ

万葉集・巻第三
桜田へ鶴鳴きわたる年魚市潟潮干にけらし鶴鳴きわたる

万葉集・巻第三
四極山うち越え見れば笠縫の島漕ぎ隠る棚なし小舟

万葉集・巻第三
磯の崎漕ぎ廻み行けば近江の海八十の港に鶴さはに鳴く

万葉集・巻第三
我が舟は比良の港に漕ぎ泊てむ沖へな離りさ夜更けにけり

万葉集・巻第三
いづくにか我が宿りせむ高島の勝野の原にこの日暮れなば

万葉集・巻第三
妹が我れも一つなれかも三河なる二見の道ゆ別れかねつる

万葉集・巻第三
三河の二見の道ゆ別れなば我が背も我れもひとりかも行かむ

万葉集・巻第三
早来ても見てましものを山背の多賀の槻群散りにかるかも

万葉集・巻第三
我妹子に猪名野は見せつ名次山角の松原いつか示さむ

万葉集・巻第三
いざ子ども大和へ早く白菅の真野の榛原手折りて行かむ

万葉集・巻第三
住吉の得名津に立ちて見わたせば武庫の泊りゆ出づる船人

かく故に見じと言ふものをささなみの古き都を見せつつもとな

率ひて漕ぎ去にし舟は高島の安曇の港に泊てにけむかも

婦負の野のすすき押しなべ降る雪に宿借る今日し悲しく思ほゆ