和歌と俳句

大伴家持

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振り放けて三日月見れば一目見し人の眉引き思ほゆるかも

ひさかたの雨間も置かず雲隠り鳴きぞ行くなる早稲田雁がね

雲隠り鳴くなる雁の行きて居む秋田の穂立繁くし思ほゆ

雨隠り心いぶせみ出で見れば春日の山色づきにけり

雨晴れて清く照りたるこの月夜またさらにして雲なたなびき

織女し舟乗りすらしまそ鏡清き月夜に雲立ちわたる

黄葉の過ぎまく惜しみ思ふどち遊ぶ今夜は明けずもあらぬか

万葉集・巻第三・挽歌
今よりは秋風寒く吹きなむをいかにかひとり長き夜を寝む

万葉集・巻第三・挽歌
秋さらば見つつ偲へと妹が植ゑしやどのなでしこ咲きにけるかも

万葉集・巻第三・挽歌
うつせみの世は常なしと知るものを秋風寒み偲ひつるかも

万葉集・巻第三・挽歌
時はしもいつもあらなむ心痛くい行く我妹かみどり子を置き

万葉集・巻第三・挽歌
出でて行く道知らませばあらかじめ妹を留めむ関も置かまじ

万葉集・巻第三・挽歌
妹が見しやどに花咲き時は経ぬ我が泣く涙いまだ干なくに

万葉集・巻第三・挽歌
かくのみにありけるものを妹も我れも千年のごとく頼みたりけり

万葉集・巻第三・挽歌
家離りいます我妹を留めかね山隠しつれ心どもなし

万葉集・巻第三・挽歌
世間は常かくのみとかつ知れど痛き心は忍びかねつも

万葉集・巻第三・挽歌
佐保山にたなびく霞見るごとに妹を思ひ出で泣かぬ日はなし

万葉集・巻第三・挽歌
昔こそ外にも見しか我妹子が奥城と思へばはしき佐保山

玉桙の道は遠けどはしきやし妹を相見に出でてぞ我が来し

我妹子が業と作れる秋の田の早稲穂のかづら見れど飽かぬかも

秋風の寒きこのころ下に着む妹が形見とかつも偲はむ

高円の野辺のかほ花面影に見えつつ妹は忘れかねつも

我がやどの時じきのめづらしく今も見てしか妹が笑まひを

我がやどの萩の下葉は秋風もいまだ吹かねばかくぞもみてる

河口の野辺に廬りて夜の経れば妹が手本し思ほゆるかも