秋の夜は 淋しさうたた まさりけり 水邊の荻の ともすりのこゑ
川の端の をひしげりたる 草の葉に 夜しるむしの 見えつかくれつ
梅が枝に 始めてきなく 鶯の 春をしらする 法の一聲
夕されば 東の峯に 月いでて 窓にうつれる 庭の白梅
あす花見 こよひ月見と いふめるも 人の命の はかられてこそ
ふる郷を かなたの空と ながむれば 窓にさし入る おぼろ月かな
おさまれる 御代に関守 あらねども 濱の千鳥の 聲ぞきこゆる
月を見る 人さまざまの 心哉 盆皿茶碗 あるは四斗樽
生が歸か 死が歸か夢の 世の中に 夢見てなやむ 我身なりけり
旅人の 思ふ心の ありたけを かきてたのまん 空のむら雁
姫松の ふみよむ窓に かざしきて 君が事々も 思ひいでけり
にぎはしき 都のちまた 夫よりも 河べの里に 夏は住ばや
夏をだに しらぬ小河の 水上の 山の奥にや 秋はたつらん
松蔭に わきて流るる 眞清水の 藻にすむ魚は 夏をしらじな
傳へきく 蝦夷の深山の 奥ならで さけんかたなき けふのあつさは
呉竹の ふしも直なる 心もて 葉分の風を 雨とあざむく
むら雨 窓をあくれば 我庵の 園生の竹に 風わたる也
葉がくれに ひれふる鯉の 過つらん 蓮の露の こぼれぬる哉