和歌と俳句

暑さ

子規
傳へきく 蝦夷の深山の 奥ならで さけんかたなき けふのあつさは

子規
羽団扇の愛宕おろしの風もかな都大路の今日のあつさは

白砂のきらきらとする熱さ哉 子規

牛の尾の力も弱るあつさ哉 子規

幾曲りまがいてあつし二本松 子規

くたびれを養ひかぬる暑さかな 子規

昼顔の花に皺見るあつさかな 子規

上野から見下す町のあつさ哉 子規

大仏を見つめかねたる暑哉 子規

猶暑し骨と皮とになりてさへ 子規

須磨寺に取りつく迄の暑哉 子規

塵埃り晏子の御者の暑哉 漱石

袖腕に威丈高なる暑かな 漱石

銭湯に客のいさかふ暑かな 漱石

夕日さす裏は磧のあつさかな 漱石

泳ぎ上り河童驚く暑かな 漱石

赤き日の海に落込む暑かな 漱石

日は落ちて海の底より暑かな 漱石

抜く草の根の皆きれて暑さかな 泊雲

暑さきはまる土に喰ひいるわが影ぞ 山頭火

縫ふ肩をゆすりてすねる子暑さかな 久女

木の枝の瓦にさはる暑さかな 龍之介

竹の根の土に跨る暑さかな 龍之介

潮汲の眼に松遠き暑さかな 月二郎

丘の家に日しづむ海や麦むしろ 月二郎

橋暑し更に散歩を移すなる 虚子