和歌と俳句

正岡子規

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夕立やはちすを笠にかぶり行く

小娘の団扇つかふや青すだれ

木をつみて夜の明やすき小窓かな

夕立や一かたまりの雲の下

梅雨晴れやところどころに蟻の道

すつと出て莟見ゆるや杜若

萎みたる花に花さく杜若

底見えて小魚も住まぬ清水

木の枝に頭陀かけてそこに晝寐

蚊柱や蚊遣の烟よけ具合

夕立の来て蚊柱を崩しけり

一ひらの花にあつまる目高

添竹も折れて地に伏す瓜の花

つくねんと大佛たつや五月雨

五月雨の晴間や屋根を直す音

白砂のきらきらとする熱さ

蓮の葉にうまくのつたる蛙哉

屋根葺の草履であがる熱哉

木の緑したゝる奧の宮居哉

一輪の牡丹咲きたる小庭哉

紫の水も蜘手に杜若

瓜小屋にひとり肌ぬぐ月夜哉

屋のむねのあやめゆるくや石の臼

水汲んだあとの濁りや杜若

花ひとつ折れて流るゝ菖蒲かな

杜若畫をうつしたる溝のさび

やさしくもあやめ咲きけり木曽の山

一日の旅路しるきや蝸牛

雨水のしのぶつたふやかたつぶり

やすんだる日より大工の衣かへ

うたゝねの本落しけり時鳥

郭公のきの雫のほつりほつり

目にちらり木曽の谷間の子規

ほとゝぎす木曽はこの頃山つゝじ

山々は萌黄浅黄やほととぎす

折りもをり岐岨の旅路を五月雨

はれよはれよ五月もすぎて何の雨

ことごとく団扇破れし熱さ哉

ふきかへす簾の下やはすの花

此上にすわり給へとはすの花

のびたらで花にみじかきあふひ

屏の上へさきのぼりけり花葵

手水鉢横にころげて苔の花

竹の子のきほひや日々に二三寸

門さきにうつむきあふや百合の花

眞帆片帆どこまで行くぞ青嵐

紫陽花や壁のくづれをしぶく雨

下り舟岩に松ありつゝじあり

せみのなく木かげや馬頭觀世音

涼しさや行燈消えて水の音

涼しさや葉から葉へ散る蓮の露

夕立や松とりまいて五六人

雨乞の中の一人やわたし守

夕立の過ぎて跡なき清水

ラムネの栓天井をついて時鳥