寐ころんで酔のさめたる卯月哉
うすうすと窓に日のさす五月哉
短夜や逢阪こゆる牛車
あら壁に西日のほてるあつさかな
幾曲りまがりてあつし二本松
昼顔の花に皺見るあつさかな
上野から見下す町のあつさ哉
大仏を見つめかねたる暑哉
猶暑し骨と皮とになりてさへ
炎天の色やあく迄深緑
日ざかりや海人が門辺の大碇
すずしさや雲湧き起る海三寸
つり橋に乱れて涼し雨のあし
すずしさや滝ほとばしる家のあひ
涼しさや猶ありがたき昔かな
涼しさのここを扇のかなめかな
すずしさの腸にまで通りけり
すずしさや片帆を真帆に取直し
すずしさや舟うつり行千松嶋
涼しさや嶋かたぶきて松一つ
経の声はるかにすずし杉木立
涼しさや嶋から嶋へ橋づたひ
立ちよれば木の下涼し道祖神
ちろちろと焚火涼しや山の家
窓あけて寐ざめ涼しや檐の雲
風吹て篝のくらき鵜川哉
そぼふるやあちらこちらの田植歌
幟たてて嵐のほしき日なりけり
雨雲をさそふ嵐の幟かな
政宗の眼もあらん土用干
みちのくへ涼みに行くや下駄はいて
筧にも滝と名のつく涼みかな
夏痩は野に伏し山に寐る身哉
風吹いて飛ばんとぞ思ふ衣がへ
旅衣ひとへにわれを護り給へ
家並に娘見せたる浴衣哉
青簾娘をもたぬ家もなし
きぬぎぬの心やすさよ竹婦人
鉢木の謡にむせぶ蚊遣哉
山寺の方丈深き蚊遣哉
片隅へ机押しやる蚊帳哉
山寺の庫裏ものうしや蝿叩
一梅雨を羽黒にこもるひじり哉
道ふさぐ竹のたわみや五月雨
五月闇あやめもふかぬ軒端哉
うれしさや小草影もつ五月晴
夕立や沖は入日の真帆かた帆
夕立にうたるる鯉のかしらかな
見てをれば夕立わたる湖水哉