和歌と俳句

正岡子規

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どんよりと青葉にひかる卯月哉

金春や三味の袋も衣かへ

女房のとかくおくれる田植

ちりこんだ杉の落葉や心ふと

ふんどしのいろさまざまや夕すゞみ

松原へ雪投げつけんふじ詣

大川へ田舟押し出すすゞみ

一つづゝ流れ行きけり涼み舟

のりあげた舟に汐まつ涼み

夏やせの歌かきつける団扇哉

身動きに蠅のむらたつひるね

花嫁の笠きて簔きて田植

夏やせを肌みせぬ妹の思ひかな

留守の家にひとり燃えたる蚊遣

母親に夏やせかくす団扇かな

ぬけ裏をぬけて川べのすゞみかな

烏帽子着て加茂の宮守涼みけり

早乙女やとる手かゝる手ひまもなき

さをとめのあやめを抜て戻りけり

早をと女に夏痩のなきたうとさよ

涼しさや闇のかたなる瀧の音

どこ見ても涼し神の灯仏の灯

すゞしさや苫舟苫を取はづし

一村は木の間にこもる卯月

虫干の塵や百年二百年

神に燈をあげて戻りの涼み

すずしさや音に立ちよる水車

涼しさや友よぶ蜑の磯づたひ

姫杉の真赤に枯れしあつさ

松の木をぐるりぐるりと涼み

梅干の雫もよわるあつさ哉

梅干や夕がほひらく屋根の上

雨乞や天にひゞけと打つ太鼓

雨乞や次第に近き雲の脚

打水やまだ夕立の足らぬ町

土用干うその鎧もならびけり

立よりて杉の皮はぐ涼み

大仏にはらわたのなき涼しさよ

涼しさにへなげこむ扇かな

夏やせの御姿見ゆるくらさ哉

鎌倉は何とうたふか田植哥

涼しさに瓜ぬす人と話しけり

薄くらき奥に米つくあつさ

虫干や花見月見の衣の数

出陣に似たる日もあり土用干

松陰に蚤とる僧のすゞみ

早乙女の名を落しけり田草取

我先に穂に出て田草ぬかれけり

折々は田螺にぎりつ田草取

日ざかりに泡のわきたつ小溝哉

朝皃のつるさき秋に届きけり

夏痩をすなはち恋のはじめ哉

夏痩をなでつさすりつ一人哉

人形の鉾にゆらめくいさみ哉

籠枕頭の下に夜は明けぬ

蚊の口もまじりて赤き汗疣哉

川狩にふみこまれたる真菰哉

御祓してはじめて夏のをしき哉

若殿の庖刀取て沖鱠

はね鯛を取て押えて沖鱠