和歌と俳句

正岡子規

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山越えて城下見おろす若葉

汽車過ぎて烟うづまく若葉

雨雲の谷にをさまる若葉

道ばたに只一本の茂り

送られて別れてひとり木下闇

物凄き平家の墓や木下闇

見返るや門の の見えぬ迄

吸物にいささか匂ふ花柚哉

柿の花土塀の上にこぼれけり

露けしや杉の落葉のつづら折

人もなし木陰の椅子の散松葉

ありきながら桑の実くらふ木曽路

若竹や豆腐一丁米二合

牡丹咲く賎が垣根か内裏跡

牡丹載せて今戸へ帰る小舟かな

一八の屋根並びたる小村かな

芥子咲いて其日の風に散りにけり

の中に動くや亀の首

家も木も皆とさそはるる

藻の花の重なりあふて咲きにけり

弁天の石橋低し蓮の花

夜の闇にひろがる蓮の匂ひ哉

河骨の蕾乏しき流れ哉

藺の花や小田にもならぬ溜り水

蓼の葉や泥鰌隠るる薄濁り

小祭の三日にせまる かな

何神か知らずひわだの苔の花哉

うつむいて何を思案の百合の花

思ひ出して又紫陽花の染めかふる

家毎に凌霄咲ける温泉かな

昼顔に草鞋を直す別れ哉

雲濡るる巌に蔦の茂りかな

叢に鬼灯青き空家かな

夕顔に平壌のいくさ物語れ

恙なく帰るや茄子も一年目

好きの僧正山を下りけり

刈麻やどの小娘の恋衣

日の入りや麻刈るあとの通り雨

麦藁や地蔵の膝にちらしかけ

兀山のてかてかとして麦の秋

入口に麦干す家や古簾

瓜茄子どこを関屋の名残とも

晴れんとす皐月の端山塔一つ

書置の心いそぎに明け易き

もの涼し春日の巫の眼に惚れた

又けふも涼しき道へ誰が柩

夏毎に痩せ行く老の思ひかな

親はまだ衣更ふべくも見えざりき

人は皆衣など更へて来りけり

ほろほろと雨吹きこむや青簾