和歌と俳句

正岡子規

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梅のさく門は茶屋なりよきやすみ

ねころんで書よむ人や春の草

一重づつ一重づつ散れ八重桜

ちる花にもつるゝ鳥の翼かな

春雨や柳の糸もまじるらん

散る花のうしろに動く風見哉

や木魚にまじる寛永寺

胡蝶飛ぶ簾のうちの人もなし

一枝やたましひかへす梅の花

それぞれに名のつく菊の芽生哉

むら鳥のさわぐ處や初櫻

散る梅は祇王櫻はほとけ哉

花の雲かゝりにけりな人の山

落花樹にかへれど人の行へ哉

花に行く足に二日の灸かな

山燒くや胡蝶の羽のくすぶるか

見ればたゞ水の色なる小鮎哉

我庭に一本さきしすみれ

鳥なくや獨りたたずむ花の奧

あたたかな雨がふるなり枯葎

土手三里花をはなれぬ月夜哉

菜の花やはつとあかるき町はつれ

家の上に雲雀鳴きけり町はづれ

みなし子のひとりで遊ぶ

駒の尾に春の風吹く牧場哉

落したか落ちたか路の椿かな

海棠や檐に鸚鵡の宙がへり

桃さくや三寸程の上り鮎

鶯やとなりつたひに梅の花

さくや藁屋四五軒犬の聲

水鳥のつゝき出したる根芹哉

八重櫻咲きけり芋に蜆汁

草籠をおいて人なし春の山

兩側の竹藪長し赤椿

花ちるや寂然として石佛

あくびした口に花ちる日永

上總までかちわたりせん汐干潟

落ち行けば隣のくにや揚雲雀

の聲の細さよ岨五丈

陽炎や南無とかいたる笠の上

菜の花の中に道あり一軒家

や山をいづれば誕生寺

七浦や安房を動かす波の音