行く春や大根の花も菜の花も
涅槃會や何見て歸る子供達
うたゝねを針にさゝれる日永哉
死はいやぞ其きさらぎの二日灸
涅槃像胡蝶の梦もなかりけり
涅槃會の一夜は闇もなかりけり
白き山青き山皆おぼろなり
朧夜にくづれかゝるや浪かしら
のどかさや松にすわりし眞帆片帆
氣の輕き拍子也けり茶摘歌
うぐひすの茶の木くゝるや春の雨
生壁に花ふきつける春の風
春雨やよその燕のぬれてくる
馬子哥の鈴鹿上るや春の雨
青柳にふりけされけり春の雪
須磨を出て赤石は見えず春の月
初雷や蚊帳は未だ櫃の底
陽炎や苔にもならぬ玉の石
春雨に白木よごるゝ宮ゐかな
陽炎や草くふ馬の鼻の穴
たんぽゝをちらしに青む春野哉
一休に歌よませばや汐干狩
内海の幅狹くなる汐干哉
貝とりの沙嶋へつゞく汐干哉
戀猫や物干竿の丸木橋
蝶蝶や順礼の子のおくれがち
白魚やそめ物洗ふすみた川
鶯やみあかしのこる杉の杜
壁ぬりの小手先すかすつばめ哉
長町のかどや燕の十文字
若鮎の二手になりて上りけり
門しめに出て聞て居る 蛙かな
大佛を取て返すや燕
燕や二つにわれし尾のひねり
濁り江の闇路をたどる白魚哉
子に鳴いて見せるか雉の高調子
鶯の筧のみほす雪解哉
白魚は雫ばかりの重さ哉
恐ろしき女も出たる花見哉
土器に花のひつつく神酒哉
山吹の垣にとなりはなかりけり
烏帽子着た人も見ゆるや嵯峨の花
蒟蒻につつじの名あれ太山寺
古町より外側に古し梅の花
日うけよき水よき処初櫻
白魚の又めぐりあふ若和布哉
櫻より奧に桃さく上野哉
西山に櫻一木のあるじ哉
紅梅や式部納言の話聲
紅梅の一輪殘る兜かな
花の雲博覽會にかゝりけり
黒門に丸の跡あり山さくら
醉ふて寐て夢に泣きけり山櫻
はいつてはくゞつては出ては花の雲
青海苔や水にさしこむ日の光
骸骨となつて木陰の花見哉
浪花津は海もうけたり梅の花