和歌と俳句

燕 乙鳥

西行
帰る雁にちがふ雲路のつばくらめこまかにこれや書ける玉章

定家
年を経て馴れえむみやのつばくらめうらやみたえて後も幾春

定家
つばくらめあはれに見へるためしかな変はる契りは習なる世に

盃に泥な落しそむら燕 芭蕉

柳にはふかでおのれあらしの夕燕 嵐雪

簾に入て美人に馴る燕かな 嵐雪

あそぶともゆくともしらぬ燕かな 去来

蔵並ぶ裏は燕のかよひ道 凡兆

つばくらや御油赤坂の二所帯 許六

乙鳥も土気はなれて清水哉 千代女

乙鳥来てあゆみそめるや舟の脚 千代女

舎りして笘とはならぬ燕かな 千代女

青柳の心には似ぬ燕かな 千代女

ふためいて金の間を出る燕かな 蕪村

つばくらや水田の風に吹れがほ 蕪村

細き身を子に寄添る燕かな 蕪村

花に啼く声としもなき乙鳥哉 蕪村

大津絵に糞落しゆく燕かな 蕪村

大和路の宮もわら屋もつばめ哉 蕪村

古き戸に影うつり行燕かな 召波

花の酔さましに来たか夕つばめ 暁台

はしり帆の帆綱かいくゞるつばめ哉 白雄

燕来てなき人問ん此彼岸 太祇

来るとはや往来数ある燕かな 太祇

乙鳥や雪に撓みし梁の上 几董

艸の葉や燕来初てうつくしき 一茶

浅艸や乙鳥とぶ日の借木履 一茶

艸の葉のひたひた汐やとぶ乙鳥 一茶

夕燕我には翌のあてはなき 一茶

乙鳥にきそのみそ搗始りぬ 一茶

今来たと皃をならべる乙鳥哉 一茶

乙鳥来る日を吉日に味噌煮哉 一茶