和歌と俳句

松尾芭蕉

此屋のかなしさ告げよ野老堀

盃に泥な落しそむら

物の名を先とふ蘆のわか葉哉

いも植て門は葎のわか葉哉

のうれんの奥物ぶかし北の

神垣やおもひもかけず涅槃像

御子良子の一もと床し梅の花

何の木の花とはしらず匂哉

はだかにはまだ衣更着のあらし哉

初桜折しもけふは能日なり

丈六にかげろふ高し石の上

香ににほへうにほる岡の梅のはな

さまざまの事おもひ出すかな

をやどにはじめをはりやはつかほど

このほどを花に礼いふわかれ哉

よし野にて櫻見せふぞ檜の木笠

春の夜や籠り人ゆかしの隅

雲雀より空にやすらふ峠哉

竜門のや上戸の土産にせん

酒のみに語らんかかる滝の花

はなのかげうたひに似たるたび寝哉

ほろほろと山吹ちるか滝の音

桜がりきどくや日々に五里六里

日はに暮てさびしやあすならふ

扇にて酒くむかげやちる