和歌と俳句

志太野坡

初年や百の赤子の老ひとつ

ほのぼのと鴉黒むや窓の春

なに事の式うらうらと今朝の空

名乗べき名もあらまほし今朝の門

初手水むすぶや指も梅のはな

長松が親の名で来る御慶

屠蘇雑煮かくてあらまし桜まで

七種や粧ひしかけて切刻み

わか恵比寿宿は巌や酒のぬし

定恵方浅茅が庵は月と花

雲霞どこ迄行も同じ事

猫の恋初手から啼て哀也

春風にむかふ椿のしめり哉

ほんのりと日のあたりたる

世の中のは不思議よ芳野山

家並の博多は花に海の音

五月鳶啼や端山の友くもり

すずしさや昔かやうの祖父と祖母

ひかひかと暑しものみる額つき

爪先に入るや外山の雲のみね

夕立やふりそこなひて雲のみね

一丈の風のかほりや庭の松

風薫る人の古ひや椎はしら

風薫る汐の鞁や追手川

うぐひすの声を帆にせよ梅の雨