和歌と俳句

吉野山

西行
吉野山人に心を付けがほに花より先にかかる白雲

西行
空はただ雲なりけりな吉野山花もて渡る風と見たれば

西行
山人よ吉野の奥にしるべせよ花も尋ねんまた思ひあり

新古今集・雑歌
吉野山やがて出でじと思ふ身を花散りなばと人や待つらん

西行
何となく春になりぬと聞く日より心にかかるみ吉野の山

西行
深く入るは月ゆゑとしもなきものを憂き世忍ばんみ吉野の山

西行
吉野山花の散りにし木の本にとめし心はわれを待つらん

西行
吉野山高嶺の桜咲きそめば懸からんものか花の薄雲

西行
人はみな吉野の山へいりぬめり都の花にわれはとまらん

西行
根に帰る花を送りて吉野山夏の境にいりていでぬる

西行
吉野山うれしかりける導べかなさらでは奥の花を見ましや

西行
吉野山梢の空の霞むにてさくらの枝も春知りぬらん

吉野山雲と見えつる花なれば散るも雪にはまがふなりけり

吉野山雲もかからぬ高嶺かなさこそは花の根に帰りなめ

西行
疾き花や人より先に尋ぬると吉野に行きて山祭せん

山桜吉野まうでの花しねを尋ねむ人の糧に包まむ

谷の間も峰の続きも吉野山花ゆゑ踏まぬ岩根あらじを

常磐なる花もやあると吉野山奥なく入りてなほ尋ね見む

新古今集 西行
吉野山去年のしをりの道かへてまだ見ぬかたの花を尋ねむ

花散りて雲晴れぬれば吉野山梢の空は緑にぞなる

花散りぬやがて尋ねんほととぎす春を限らじみ吉野の山

新古今集 西行
吉野山さくらが枝に雪ちりて花おそげなる年にもあるかな

またれつる吉野のさくらさきにけり心と散らせ春の山風

散らぬ間は盛に人も通ひつつ花に春ある三吉野の山

吉野山花をのどかに見ましやは憂きがうれしきわが身なりけり

西行
吉野山風こす岫に花咲けば人の折さへをしまれぬかな

春暮れて人散りぬめり吉野山花の別れを思ふのみかは

寂蓮
たづねきて 花見ぬ人や 思ふらむ 吉野の奥を 深きものとは

式子内親王
誰も見よ芳野の山の峰つづき雲ぞ櫻か花ぞしら雪

式子内親王
待たれつる花の盛か吉野山霞の間よりにほふ白雲

式子内親王
たづね見よ芳野の花の山おろしの風の下なる我が庵のもと

式子内親王
花ゆへにけふぞふみみることしあれば心にならすみよしのの山

式子内親王
峰の雲麓の雪に埋もれていづれを花とみよし野の里

鴨長明
春といへば 吉野の山の 朝霞 年をもこめて はや立ちにけり

鴨長明
吉野山 高嶺にや 咲きぬらむ 晴れゆくなかに とまる白雲

鴨長明
吉野山 あさせ白波 岩こえて 音せぬ水は さくらなりけり