和歌と俳句

吉野山

茶の花や利休が目にはよしの山 素堂

高取の城の寒さやよしの山其角

芳野山又ちる方にめぐり 去来

に花のふすまや芳野山 許六

新蕎麦や熊野へつゞくよしの山 許六

世の中のは不思議よ芳野山 野坡

初花は誰ぬしなるぞよし野山 千代女

ふた夜三夜寝て見るやよし野山 千代女

みよし野やころび落ても花の上 千代女

みよし野のちか道寒し山さくら 蕪村

みよし野に花盗人はなかりけり 蕪村

雲を呑で花を吐なるよしの山 蕪村


吉野山奥の行燈や一の午 蛇笏

利玄
汽車のろく裾山ぞひを行くなべに手のとどくところにも丹躑躅咲ける

利玄
葉ざくらよ雨間の雫地をうてり花どき過ぎてかくはしづけき

利玄
おく山はこのおそ春も冷ゆるなり残れる櫻に霧のつゆ凝る

利玄
みよしののうら谷さむく霧しまき繁み立つ杉の梢こぞり鳴る

利玄
岨みちの蕨折りためゆきしかば手つめたしも山のさ霧に

凍雲のしづかに移る吉野かな 草城

茂吉
伯母峰の峠のうへにかへりみる吉野の山は大きしづけさ

茂吉
春の日はきらひわたりてみよしのの吉野の山はふかぶかと見ゆ

茂吉
春の日は午を過ぎつつみよしのの山の杉生は陰をつくりぬ

みよしのや青水無月の青山の 草城

みなつきの吉野は朝日子のはやき 草城

咲き垂れて谿風あぐる吉野 友二

みよしののどんぞこの田の植ゑ終り 青畝

とび出す緑の一目千本へ 静塔

弱木より動き吉野の青あらし 静塔

青吉野鍾乳洞を匐うて出る誓子