万葉集・巻第一
み吉野の山のあらしも寒けくにはたや今夜も我がひとり寝む
人麻呂
山の際ゆ出雲の子らは霧なれや吉野の山の嶺にたなびく
万葉集・巻第十三
み雪降る吉野の岳に居る雪の外に見し子に恋ひわたるかも
古今集・春 よみ人しらず
春霞たてるやいづこ み吉野の吉野の山に雪はふりつつ
古今集・冬 是則
み吉野の山の白雪つもるらしふるさと寒くなりまさるなり
古今集・冬 忠岑
み吉野の山の白雪ふみわけて入りにし人のおとづれのせぬ
古今集・冬 是則
あさぼらけありあけの月と見るまでに 吉野のさとにふれる白雪
拾遺集・春 忠岑
春たつといふばかりにや三吉野の山もかすみて今朝は見ゆらん
貫之
みよしのの 山より雪の 降り来れば いつともわかず わがやどのたけ
貫之
梅の花 咲くとも知らず みよしのの 山にともまつ 雪の見ゆらむ
貫之
みよしのの 吉野の山は ももとせの 雪のみつもる ところなりけり
貫之
春霞 たちよらねばや みよしのの 山にいまさへ 雪のふるらむ
貫之
君まさば 寒さも知らじ みよしのの 吉野の山に 雪はふるとも
躬恒
いづことも春の光はわかなくにまだみよしのの山は雪ふる
拾遺集・春 重之
吉野山峰の白雪いつ消えて今朝は霞の立かはるらん
拾遺集・雑 元輔
いにしへも登りやしけん吉野山山より高き齢なる人
兼盛
見わたせば松の葉白き吉野山幾世積もれる雪にかあるらん
能宣
我が宿の雪につけてぞふる里の吉野の山は思ひやらるゝ
好忠
花のをりいきたらば来んみ吉野の萩の焼生はなべて見つるを
金葉集・春 重之
吉野山みねの白雪いつ消えてけさは霞のたちかはるらむ
紫式部
み吉野は春の気色に霞めども結ぼほれたる雪の下草
詞花集・春 匡房
白雲とみゆるにしるしみ吉野の吉野の山の花ざかりかも
経信
吉野山山となりけむそのかみもかくや佐保姫雪をあつめし
顕季
吉野山 春はなかばに なりぬれど 雪消えやらで 花咲かぬかも
顕季
雲雀あがかる ときにしなれば 吉野山 そことも見えず 霞たなびく
師頼
吉野山 つもれる雪の 消えゆくは またふるとしに 春やくるらむ
頼政
冬こもる 吉野の山の 岩屋には 苔のしづくに 春を知るらむ
頼政
今宵たれ すず吹く風を 身にしめて 吉野の嶽の 月を見るらむ
金葉集・春 摂政左大臣忠通
吉野山みねの櫻や咲きぬらむ麓の里に匂ふ春風
金葉集・春 修理大夫顕季
櫻花さきぬるときは吉野山たちものぼらぬ峰の白雲
金葉集・雑歌 源定信朝臣
みな人は吉野の山の櫻花をりしらぬ身や谷の埋もれ木