和歌と俳句

紀貫之

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うすくこく 色もみえける 菊の花 露やこころを わきて置くらむ

なにはめの 衣ほすとて 刈りて焚く 葦火のけぶり 立たぬ日ぞなき

降る雪に 色はまがへば うちつけに 梅を見るさへ 寒くざりける

かひがねの 山里みれば あしたづの いのちをもたる 人ぞ住みける

吹く風に あかず思ひて うらなみの 数にぞ君が 年をよせける

君となほ ちとせの春に あふさかの 清水はわれも 汲まむとぞおもふ

かめやまの こふをうつして ゆく水に 漕ぎ来る舟は いくよ経ぬらむ

きみがよの 年の數をば しろたへの 浜の真砂と たれかいひけむ

よとともに ゆきかふ舟を 見るごとに ほにいでて君を ちとせとぞおもふ

たなびかぬ 時こそなけれ あまもなき まつがさきより 見ゆる白雲

手毎にぞ 人は折りける 君がため ゆくすゑ遠き 秋の野の萩

おちつるも おとは見ゆれど ももとせの 秋のとまりは 嵐なりけり

かげとのみ 頼むかひありて 露霜に 色かはりせぬ かへのやしろか

梅の花 おほかる里に うぐひすの 冬ごもりして 春を待つらむ

みよしのの 吉野の山は ももとせの 雪のみつもる ところなりけり

春日野の 若菜も君を いのらなむ たがためにつむ 春ならなくに

さくら花 散らぬ松にも ならはなむ 色ことごとに 見つつ世をへむ

わがやどに 春こそおほく 来にけらし 咲ける桜の かぎりなければ

君がため わがをる花は 春とほく ちとせ見たるを をりつつぞ咲く

をりつみて はやこきかへれ 藤の花 春は深くぞ 色は見えける