和歌と俳句

藤原敦忠

後撰集・恋
逢ふことを いさ穂にいでなむ 篠すすき 忍びはつべき 物ならなくに

名に立つと あまの濡れ衣 くやしきを 干さではやまむ ものならなくに

心にも あらでありふる 年月の 今日まで花と つみてけるかな

五月雨の よよと鳴きつる ほととぎす 袖のひるまも なきぞ悲しき

やまうちに やどりをしせる 秋なれば いのるしるしの いかがなからむ

新勅撰集・恋
雲井にて くもゐに見ゆる かささぎの はしをわたると 夢に見しかな

夢なれば 見ゆるなるらむ かささぎは この世の人の 越ゆる橋かは

うちつけに おもひ出づとや ふるさとの しのぶ草にて 摺れるなりけり

ことつけに おもひ出づやと ふるさとの しのふ草して すれるなりけり

旅とほく 別るる人を おもふには 心の色ぞ あらはれにける

しのびにも いかでかとはぬ 濡れ衣を 名にのみ立ちて やまむとやする

しぼりたる あまの濡れ衣 おなし名を おもひかへさで きるよしもがな

新勅撰集・恋
しほたるる あまのぬれぎぬ おなじ名を おもひかへさで きるよしもがな

おもへども なを鴛鴦の たちかへり とまるあうらは ゆきははなれじ

三輪の山 かひなかりけり わがかどの 入江の松は きりやしてまし

植ゑおきし 三輪のやまもり ゆるさずは おひ茂るとも 誰かきるべき

君ならで 誰かはまたば 山城の 伏見の里を たちならすべき

拾遺集・哀傷
君なくて 立つあさきりは ふぢ衣 池さへきるぞ かなしかりける

心にも あらであひみぬ 年月を 今日まで花と つみてけるかな

うつろはぬ 心なりせば 年月を 花とつみても 見せずぞあらまし

春の夜の 闇の中にて なく雁は 帰る路にぞ まどふべらなる