和歌と俳句

藤原敦忠

匂ひうすく 咲ける花をも 君がため 折るとしをれば 色まさりけり

をらざりし ときより匂ふ 花なれば わがため深き 色とやはみる

阿武隈に あらぬものから 秋霧の たちかへりても 恋ふるけさかな

けふ秋と たのめしよりも なかなかに 思ふ程にも まどひぬるかな

何により さしてをしへし 程なりや まどふはいづち 行かまほしきぞ

思ふこと 無げなる藤の 花さへに 何をまつにか かかりそめけむ

劣らじと おもほゆるかな 藤の花 ときはに枯れず 我のみぞ待つ

おなじくは あらじとぞ思ふ うつせみに 劣らぬ音にも なきわたるかな

うらもなく 頼まむことは うつせみに 劣らぬ音をば なかずぞあらまし

露ながら 野辺の花をば をらねども たえず袂を ぬらすころかな

露にだに おほせぞせまし かくばかり 照る日に濡るる 袖もあらじを

続後撰集・恋
さりともと おもふ心に はかられて 世にも今日まで 生ける我が身か

頼むにも 命のかかる ものならば 千歳もかくて あらむとを思へ

いつしかと おもふ心の なき人や とまらぬ花を 侘しとは思ふ

野分して 白波たたむ 時だにも すぐさず君に 逢ひみてしがな

松山も 越ゆといふなる 白波の 立たむ時とは かけずもあらなむ

わびてのみ わが身をふるは 一つ日も おとらぬものは 涙なりけり

せきもあへぬ 涙なりとも これを君 とはで日頃の ふるはまされり

ひとへだに きるは侘しき 藤衣 このことをさへ 重ねてぞ思ふ

きて憂しと 思ふかぎりぞ 藤衣 重ねて色も 思はざりける