和歌と俳句

藤原敦忠

あらたまの 年のわたりを あらためぬ むかしながらの 橋とみやせし

橋柱 むかしながらに ありければ つぐるよもなく あはれとぞ見し

うらみても かひはなくとも ひとり寝る 床めづらかに 辛き君かな

わが恋は かくやと思へば しかすがに けたれたるをも うれしとぞ思ふ

わが如く もの思ふときは ほととぎす 身を卯の花の かげに鳴くらむ

我ならぬ 菊の花さへ 世の中を うらむるさまに うつろへるかな

このうらの 雫に濡れむ やまみちを 越えてもゆかむ 君があたりは

あしひきの 山のしづくは しげくとも 頼みてまつは もらさざらなむ

七日ふる 雨のこころを 知りながら 来ざらむ人は さもなかれなむ

なほざりの 名にこそありけれ 呼子鳥 こたへぬほどに 声のかれぬる

まれにのみ 逢ふたなばたの 今宵より うつれる水の 影と知らなむ

もろともに いざといはずば 死出の山 越ゆとも越さむ ものならなくに

道知らぬ ものならなくに みよしのの 山ふみまどふ 人もありけり

後撰集・雑歌
しらかしの 雪もきえにし あしひきの 山路を誰か ふみ迷ふべき

拾遺集・雑賀
ちとせふる 霜のつるをば おきながら ひさしき物は 君にぞありける

後撰集・秋
逢ふ事の こよひ過ぎなば たなばたに おとりやしなん こひはまさりて

たなばたの あまのとわたる けふさへや をちかた人の つれなかるらむ

後撰集・冬
物思ふと すぐる月日も 知らぬ間に 今年はけふに はてぬとかきく

今よりは 風にまかせむ さくら花 散る木のもとに 君とまりけり

後撰集・春
風にしも 何かまかせん 桜花 匂あかぬに 散るはうかりき

深き色か いへはたうすく うつろはむ 花に心ぞ つけざらむもの

後撰集・恋
いかにして かく思ふてふ 事をだに 人づてならで 君に語らむ

拾遺集・恋
いかでかは かく思ふてふ 事をだに 人づてならで 君にしらせむ

拾遺集・恋小倉百人一首
あひ見ての 後の心に 比ぶれば 昔は物も 思はざりけり

かかりける 人の心を 白露の おもふものとも 思ひけるかな

後撰集・恋
かかりける 人の心を 白露の 置ける物とも 頼みけるかな

かりにくと きくに心の 見えぬれば わが袂には よせじとぞ思ふ

後撰集・恋
池水の いひいづる事の かたければ みごもりながら 年ぞへにける

拾遺集・恋
身にしみて 思ふ心の 年ふれば つひに色にも いでぬべきかな

新古今集・恋
心にも まかせざりける 命もて たのめも置かじ 常ならぬ世に