醍醐天皇御歌
雲居なる雁だに鳴きて来る秋になどかは人のおとづれもせぬ
村上天皇御歌
春行きて秋までとやは思ひけむかりにはあらず契りしものを
西宮前左大臣
初雁のはつかに聞きしことづても雲路に絶えてわぶる頃かな
藤原惟成
小忌衣こぞばかりこそなれざらめ今日の日影のかけてだに問へ
藤原元真
すみよしの恋忘れ草たね絶えてなき世に逢へるわれぞ悲しき
村上天皇御歌
水の上のはかなき數もおもほえず深き心しそこにとまれば
謙徳公
長き世の尽きぬ歎きの絶えざらばなににいのちをかへて忘れむ
權中納言敦忠
心にもまかせざりける命もてたのめも置かじ常ならぬ世に
藤原元真
世の憂きも人の辛きもしのぶるに恋しきにこそ思ひわびぬれ
参議篁
數ならばかからましやは世の中にいと悲しきは賤のをだまき
藤原惟成
人ならば思ふ心をいひてましよしやさこそは賤のをだまき
よみ人しらず
わがよはひ衰へゆけば白たへの袖の馴れにし君をしぞおもふ
よみ人しらず
今よりは逢はじとすれや白たへのわがころも手の乾く時なき
よみ人しらず
玉くしげあけまく惜しきあたら夜を衣手かれてひとりこも寝む
よみ人しらず
逢ふ事をおぼつかなくてすぐすかな草葉の露の置きかはるまで
よみ人しらず
秋の田の穂むけの風のかたよりにわれは物思ふつれなきものを
よみ人しらず
はし鷹の野守の鏡えてしがなおもひおもはずよそながら見む
よみ人しらず
大淀の松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへる波かな
よみ人しらず
白波は立ち騒ぐともこりずまの浦のみるめは刈らむとぞおもふ
よみ人しらず
さして行くかたはみなとの浪高みうらみてかへる海人の釣舟