馬内侍
つらからば恋しきことは忘れなでそへてはなどかしづ心なき
馬内侍
君しまれ道のゆききを定むらむ過ぎにし人をかつ忘れつつ
藤原仲文
花咲かぬ朽木の杣の杣人いかなるくれにおもひいづらむ
大納言経信母
おのづからさこそはあれと思ふまに誠に人のとはずなりぬる
前中納言教盛母
習はねば人の問はぬもつらからで悔しきにこそ袖は濡れけれ
皇嘉門院尾張
歎かじな思へば人につらかりしこの世ながらの報なりけり
和泉式部
いかにしていかにこの世にありへばか暫しも物を思はざるべき
清原深養父
嬉しくば忘るることもありなましつらきぞ長き形見なりける
素性法師
逢ふことの形見をだにもみてしがな人は絶ゆとも見つつ忍ばむ
小野小町
わがみこそあらぬかとのみたどらるれ問ふべき人に忘られしより
能宣朝臣
葛城や久米路にわたす岩橋の絶えにし中となりやはてなむ
祭主輔親
今はとも思ひなたえそ野中なる水のながれは行きてたづねむ
伊勢
思ひ出づやみののを山のひとつ松ちぎりしことはいつも忘れず
業平朝臣
出でていにし跡だにいまだ変らぬに誰が通ひ路と今はなるらむ
業平朝臣
梅の花香をもに袖にとどめ置きてわが思ふ人はおとづれもせぬ
村上天皇御歌
天の原そことも知らぬ大空におぼつかなさを歎きつるかな
御返し 女御徽子女王
なげくらむ心を空に見てしがな立つ朝露に身をやなさまし
光孝天皇御歌
逢はずしてふる頃ほひのあまたあれば遙けき空にながめをぞする
兵部卿致平親王
思ひやる心も空にしら雲の出で立つかたを知らせやはせぬ
躬恒
雲居より遠山鳥の鳴きて行くこゑほのかなる恋もするかな