和歌と俳句

藤原道長

拾遺集・雑春
谷の戸をとぢやはてつる鴬のまつにおとせで春もすぎぬる

拾遺集・雑賀
いはのうへの松にたとへむきみきみは世にまれらなるたねぞとおもへば

後拾遺集・春
君ませとやりつる使きにけらし野辺の雉子はとりやしつらむ

後拾遺集・冬
同じくぞつもるらんと思へども君ふる里はまづぞとはるる

後拾遺集・雑歌
よろづよを君がまもりと祈りつつ太刀つくりえのしるしとをみよ

後拾遺集・雑歌
もろかづら二葉ながらも君にかく葵や神のしるしなるらむ

後拾遺集・雑歌
わかなつむ春日の原に雪ふれば心づかひをけふさへぞやる

詞花集・賀
君が世にあふくま川のそこきよみ千歳をへつつすまむとぞおもふ

千載集・恋
冬の日を春より永くなすものは恋ひつつ暮らす心なりけり

千載集・雑歌
数へ知る人なかりせば奥山の谷の松とや年をつままし

千載集・雑歌
谷の戸を閉ぢやはてつる鴬の待つに音せで春のくれぬる

千載集・雑歌
いにしへは思ひかけきや取り交しかく着んものと法の衣を

新古今集・恋
時鳥こゑをば聞けど花の枝にまだふみなれぬものをこそ思へ

新古今集・雑歌
春霞たなびきわたる折にこそかかる山辺はかひもありけれ

新古今集・雑歌
唐衣花のたもとに脱ぎかへよわれこそ春のいろはたちつれ

新古今集・雑歌
白露はわきても置かじ女郎花こころからにや色の染むらむ

新古今集・雑歌
馴れみてし花の袂をうちかへし法の衣をたちぞかへつる

新古今集・釈経
わたつ海の底より来つる程もなくこの身ながらに身をぞ極むる

新勅撰集・神祇
いかなれば かざしのはなは 春ながら をみのころもに しものおくらん

新勅撰集・釈経
きてつぐる 人なかりせば ころもでに かくるたまをも しらずやあらまし

新勅撰集・恋
夜もすがら くひなよりけに なくなくぞ まきのとぐちに たたきわびぬる

新勅撰集・雑歌
けさかふる なつのころもは としをへて たちしくらゐの いろぞことなる

続後撰集・秋
雲路より みなそこまでに すむは うへしたてらす 鏡とぞみる

続後撰集・釈経
上もなき 道をもとむる 心には 命も身をも 惜しむものかは

続後撰集・釈経
ひとめには よのうき雲に かくろへて なほすみわたる 山の端の月

続後撰集・恋
あふことの なぎさなればや みやこ鳥 かよひし跡も たえてとひこず