前大僧正慈円
柴の戸に匂はむ花はさもあらばあれながめてけりな恨めしの身や
西行法師
世の中を思へばなべて散る花のわが身をさてもいづちかもせむ
安法法師
身はとめつ心はおくる山ざくら風のたよりに思ひおこせよ
源俊頼朝臣
さくらあさのをふの浦波たちかへり見れどもあかず山梨の花
加賀左衛門
しらなみの越ゆらむすゑのまつ山は花とや見ゆる春の夜の月
加賀左衛門
おぼつかな霞たつらむたけくまの松の隈もる春の夜の月
法印幸清
世をいとふ吉野の奥のよぶこ鳥ふかき心のほどや知るらむ
前大納言忠良
をりにあへばこれもさすがにあはれなり小田のかはづの夕暮れの聲
有家朝臣
春の雨のあまねき御代を頼むかな霜に枯れ行く草葉もらすな
八條前太政大臣
すべらぎの木高き蔭にかくれてもなほ春雨に濡れむとぞ思ふ
実方朝臣
八重ながら色もかはらぬ山吹のなど九重に咲かずなりにし
御返し 円融院御歌
九重にあらで八重咲く山吹のいはぬ色をば知る人もなし
前大僧正慈円
おのが浪に同じ末葉ぞしをれぬる藤咲く田子のうらめしの身や
法成寺入道前摂政太政大臣道長
唐衣花のたもとに脱ぎかへよわれこそ春のいろはたちつれ
御返し 上東門院
から衣たちかはりぬる春のよにいかでか花の色を見るべき
紫式部
神代にはありもやしけむ桜花けふのかざしに折れるためしは
式子内親王
ほととぎすそのかみ山の旅枕ほのかたらひし空ぞわすれぬ
よみ人しらず
たちいづるなごりありあけの月影にいとどかたらふ時鳥かな
返し 左衛門督家通
いく千世と限らぬ君が御代なればなほ惜しまるる今朝の曙
三條院女蔵人左近
梅が枝にをりたがへたる時鳥こゑのあやめも誰か分くべき
小辨
打ちわたす遠方人にこととへど答へぬからにしるき花かな
赤染衛門
五月雨の空だに澄める月かげに涙の雨は晴るる間もなし
皇太后宮大夫俊成
五月雨はまやの軒端のあまそそぎあまりなるまで濡るる袖かな
花山院御歌
ひとりぬる宿のとこなつ朝な朝ななみだの露に濡れぬ日ぞなき
惠子女王
よそへつつ見れど露だになぐさまずいかにかすべき撫子の花
和泉式部
おもひあらば今宵の空は問ひてまし見えしや月のひかりなりけむ
七條院大納言
おもひあれば露は袂にまがふかと秋のはじめをたれに問はまし
中務
袖のうら波吹きかへす秋風に雲のうへまですずしからなむ
紀有常朝臣
秋や来る露やまがふと思ふまであるは涙の降るにぞありける
紫式部
めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かげ
三条院御歌
月影の山の端わけて隠れなばそむくうき世をわれやながめむ
藤原為時
山の端を出でがてにする月待つと寝ぬ夜のいたくふけにけるかな
伊勢大輔
浮雲はたちかくせども隙もりて空ゆく月の見えもするかな
返し 参議正光
浮雲にかくれてとこそ思ひしかねたくも月の隙もりにける