和歌と俳句

新古今和歌集

雑歌

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

大蔵卿行宗
はなすすき秋の末葉になりぬればことぞともなく露ぞこぼるる

後徳大寺左大臣実定
夜半に吹くあらしにつけて思ふかな都もかくや秋は寂しき

返し 前中納言顕長
世の中にあきはてぬれば都にも今はあらしの音のみぞする

冷泉院御歌
うつろふは心のほかの秋なれば今はよそにぞきくの上の露

源順
頼もしな野の宮人の植うる花しぐるる月にあへずなるとも

よみ人しらず
山河の岩ゆく水もこほりしてひとりくだくる峯の松風

土御門内大臣通親
朝ごとにみぎはの氷ふみわけて君につかふる道ぞかしこき

藤原家隆朝臣
君が代にあふくま川の埋もれ木も氷の下に春を待ちけり

赤染衛門
あともなく雪ふるさとは荒れにけりいづれ昔の垣根なるらむ

後白河院御歌
露の命消えなましかばかくばかり降る白雪をながめましやは

皇太后宮太夫俊成
そまやまの梢におもる雪折に堪へぬなげきの身をくだくらむ

朱雀院御歌
時過ぎて霜にかれにし花なれど今日は昔のここちこそすれ

前大納言公任
程もなく覚めぬる夢のうちなれどそのよに似たる花の色かな

御形宣旨
見し夢をいづれの世ぞと思ふ間に折りを忘れぬ花の悲しさ

皇太后宮大夫俊成
老いぬともまたも逢はむと行く年に涙の玉を手向けつるかな

慈覚大師
おほかたに過ぐる月日をながめしはわが身に年の積もるなりけり

河嶋皇子
白波の濱松が枝のたむけぐさ幾世までにか年の経ぬらむ

式部卿宇合
山城の岩田の小野のははそ原見つつや君が山路越ゆらむ

在原業平朝臣
葦の屋の灘の鹽やきいとまなみ黄楊のをぐしもささず来にけり

在原業平朝臣
晴るる夜の星か川辺の蛍かもわが住む方に海人のたく火か

よみ人しらず
しかのあまの鹽焼くけぶり風をいたみ立ちはのぼらで山にたなびく

貫之
難波女の衣ほすとて刈りてたく葦火のけぶり立たぬ日ぞなき

壬生忠岑
年経ればくちこそまされ橋柱むかしながらの名だにかはらで

恵慶法師
春の日のながらの濱に舟とめていづれか橋と問へど答へぬ

後徳大寺左大臣実定
朽ちにけるながらの橋を来て見れば葦の枯葉に秋風ぞ吹く

權中納言定頼
沖つ風夜半に吹くらし難波潟あかつきかけて波ぞ寄すなる

藤原孝善
須磨の浦のなぎたる朝は目もはるに霞にまがふ海人の釣舟

壬生忠見
秋風の関吹き越ゆるたびごとに聲うち添ふる須磨の浦なみ

前大僧正慈円
須磨の関夢をとほさぬ波のおとを思ひもよらで宿をかりけり

摂政太政大臣良経
人住まぬ不和の関屋の板びさし荒れにし後はただ秋の風

源俊頼朝臣
あま小舟とま吹きかへす浦風にひとりあかしの月をこそ見れ

寂蓮法師
和歌の浦を松の葉ごしにながむれば梢によする海人の釣舟

正三位季能
水の江のよしのの宮は神さびてよはひたけたる浦の松風

藤原秀能
今さらに住み憂しとてもいかならむ灘の鹽屋の夕ぐれの空