後拾遺集
香をとめてとふ人あるをあやめ草あやしく駒のすさめざりける
後拾遺集
植ゑおきしあるじはなくて菊の花おのれひとりぞ露けかりける
後拾遺集・別離
紅葉見んのこりの秋もすくなきに君ながゐせば誰と折らまし
後拾遺集・羇旅
鏡山こゆる今日しも春雨のかきくもりやは降るべかりける
後拾遺集・恋
岩代のもりのいはじと思へどもしづくにぬるゝ身をいかにせん
後拾遺集・雑歌
松風も岸うつ浪ももろともにむかしにあらぬ聲のするかな
後拾遺集・雑歌
住吉の浦風いたく吹きぬらし岸うつ浪の聲しきるなり
後拾遺集・雑歌
一巻にちゞのこがねをこめたれば人こそなけれ声は残れり
後拾遺集・神祇
稲荷山みづの玉垣うちたたきわがねぎごとを神もこたへよ
金葉集・賀
たれにかと池の心も思ふらむ底に宿れる松のちとせを
金葉集・秋
高砂の尾上にたてる鹿の音にことのほかにも濡るる袖かな
詞花集・賀
たれにとか池のこころも思ふらむ底にやどれる松の千年は
詞花集・恋
あふことはまばらにあめる伊予すだれいよいよ我をわびさするかな
新古今集・春
桜散る春の山べは憂かりけり世をのがれにと来しかひもなく
新古今集・夏
わが宿のそともに立てる楢の葉のしげみに涼む夏は来にけり
新古今集・秋
秋といへば契り置きてや結ぶらむ浅茅が原の今朝のしら露
新古今集・羇旅
わぎも子が旅寝の衣薄きほどよきて吹かなむ夜半の山かぜ
新古今集・雑歌
春の日のながらの濱に船とめていづれか橋と問へど答へぬ
新古今集・雑歌
苔の庵さして来つれど君まさでかへるみ山の道ぞつゆけき
新古今集・雑歌
古へを思ひやりてぞ恋ひわたる荒れたる宿の苔のいはばし
新勅撰集・羇旅
みやこにと いそぐかひなく おほしまの なだのかけぢは しほみちにけり
新勅撰集・神祇
しもがれや ならのひろはを やひらでに さすとぞいそぐ 神のみやつこ
続後撰集・秋
くれなゐに 色どる山の こずゑにぞ 秋のふかさも まづしられける