和歌と俳句

詞花和歌集

藤原相如
君をわが思ふこころは大原やいつしかとのみすみやかれつつ

藤原道経
わか恋はあひそめてこそまさりけれ飾磨の褐の色ならねども

清原元輔
夜をふかみ帰りし空もなかりしをいづくより置く露にぬれけむ

藤原顕広朝臣
こころをば留めてこそは帰りつれあやしや何の暮をまつらむ

藤原実方朝臣
竹の葉に玉ぬく露にあらねどもまだ夜をこめて置きにけるかな

よみ人しらず
みな人の惜しむ日なれど我はただ遅く暮れゆく嘆きをぞする

藤原範綱
住吉の浅澤小野の忘れ水たえだえならであふよしもがな

和泉式部
我のみや思ひおこせむあぢきなく人はゆくへも知らぬものゆゑ

大江為基
思ふことなくて過ぎつる世の中につひにこころをとどめつるかな

祐子内親王家紀伊
つねよりも露けかりける今宵かなこれや秋立つはじめなるらむ

坂上明兼
せきとむる岩間の水もおのづから下には通ふものとこそきけ

恵慶法師
あふことはまばらにあめる伊予すだれいよいよ我をわびさするかな

右大臣雅定
いづくをも夜がるることのわりなきに二つに分くる我が身ともがな

赤染衛門
もろともにおきゐる露のなかりせば誰とか秋の夜をあかさまし

曾禰好忠
来たりとも寝るまもあらじ夏の夜の有明月もかたぶきにけり

関白前太政大臣忠通
こぬ人をうらみもはてじ契り置きしその言の葉もなさけならずや

和泉式部
夕暮に物思ふことはまさるやと我ならざらむ人にとはばや

和泉式部
なみださへいでにしかたをながめつつ心にもあらぬ月をみしかな

よみ人しらず
つらしとて我さへ人を忘れなばさりとて仲の絶えやはつべき

平公誠
あふことや涙の玉の緒なるらむしばし絶ゆれば落ちてみだるる