よさの海の蜑のしはざとみし物をさもわがやくと潮たるるかな
後拾遺集・恋
世の中に恋てふ色はなけれどもふかく身にしむ物にぞ有ける
詞花集・恋
夕暮にもの思ふことはまさるやと我ならざらむ人にとはばや
後拾遺集・雑歌
ぬれぎぬと人にはいはむ紫のねずりの衣うはぎなりとも
後拾遺集・雑歌
長しとて明けずやはあらん秋の夜は待てかし真木の戸許をだに
詞花集・恋
いくかへり辛しと人をみくまののうらめしながら恋しかるらむ
詞花集・雑
をのが身のをのが心にかなはぬを思はばものは思ひしりなん
詞花集・雑
あやめ草かりにも来らむものゆへにねやのつまとや人のみつらん
詞花集・雑
あしかれとおもはぬ山の峰にだに生ふなるものを人のなげきは
金葉集・別離・詞花集・雑
人しれずもの思ふことはならひにき花にわかれぬ春しなければ
後拾遺集・雑歌
とへとしも思はぬ八重の山吹をゆるすといはば折りに来むとや
後拾遺集・雑歌
あぢきなく思ひこそやれつれづれと独や井手のやまぶきの花
後拾遺集・雑歌
かくばかりしのぶる雨を人とはばなににぬれたる袖といはまし
後拾遺集・雑歌
君はまだ知らざりけりな秋の夜の木のまの月ははつかにぞ見る
後拾遺集・雑歌
空になる人の心にさ ゝがにのいかでけふまたかくてくらさん
後拾遺集・雑歌
三笠山さしはなれぬとききしかど雨もよにとは思ひしものを
続後撰集・春
をしなべて春は櫻になしはてて散てふことのなからましかば
春雨のふるにつけてぞ世中のうきは哀とおもひしらるる
金葉集・雑
鷺のゐる松原いかに騒ぐらむしらげばうたて里とよみけり
みやこへはいくへ霞のへだつらん思ひたつべきかたもしられず
つれづれともの思ひをれば春の日のめにたつものは霞なりけり
つれづれとふるは涙の雨なるを春のものとや人のみるらむ
千載集・雑歌
花咲かぬ谷の底にも住まなくにふかくも物を思ふ 春かな
新勅撰集・雑歌
春や来る花やさくともしらざりき谷の底なる埋木の身は
青柳のいともみなこそたえにけれ春の残りはけふばかりとて