和歌と俳句

金葉和歌集

大納言経長
君うしや花の都の花を見で苗代水に急ぐ心を

返し 藤原兼房
よそに見し苗代水にあはれわが下り立つ名をも流しつるかな

源重之
この頃は宮城野にこそまじりけれ君を牡鹿の角もとむとて

和泉式部
もろともに立たましものをみちのくの衣の関をよそに聞くかな

小大君
長き夜の闇にまよへる我をおきて雲隠れぬる空の月かな

堀河右大臣頼宗
帰るべき旅の別れとなぐさむる心にたぐふ涙なりけり

能宣
別れ路を隔つる雲の上にこそ扇の風はやらまほしけれ

参河入道
とどまらむとどまらじとも思ほえずいづくもつひのすみかならねば

菅原資忠
とまりゐて待つべき身こそ老いにけれあはれ別れは人のためかは

前太宰大弐長房
かたしきの袖にひとりは明かせども落つる涙ぞ夜をかさねける

上東門院
別れ路をげにいかばかり思ふらむ聞く人さへぞ袖はぬれける

源為成
はるかなる旅の空にもおくれねばうらやましきは秋の夜の月

民部内侍
都にておぼつかなさをならはずは旅寝をいかに思ひやらまし

和泉式部
人知れずものおもふことはならひにき花に別れぬ春しなければ

皇后宮
あかねさす日に向ひても思ひいでよ都はしのぶながめすらむと

友政朝臣妻
おきつしま雲ゐの岸をゆきかへり文かよはさむ幻もがな

参議師頼
伊勢の海のをののふるえにくちはてで都のかたへ帰れとぞ思ふ

源行宗朝臣
待ちつけむ我が身なりせば帰るべき程をいくたび君にとはまし

權中納言国信
今日はさは立ち別るともたよりあらばありやなしやの情わするな

大納言公任
東路の木の下くらくなりゆかば都の月をこひざらめやは

藤原実綱朝臣
人はいさわが身は末になりぬればまた逢坂もいかが待つべき

藤原有貞
恋しさはその人かずにあらずとも都をしのぶ數に入れなむ

權中納言通俊
さしのぼる朝日に君を思ひいでむかたぶく月に我を忘るな

橘則光朝臣
我ひとり急ぐと思ひし東路に垣根の梅はさきだちにけり

能宣
いかでなほわが身にかへて武隈の松ともならむ行く末のため