和歌と俳句

道命

後拾遺集・春
花見にと人は山べに入りはてて春はみやこぞさびしかりける

後拾遺集・夏
あしひきの山ほととぎすのみならずおほかた鳥のこゑもきこえず

後拾遺集・夏
ほととぎす待つ程とこそ思ひつれききての後もねられざりけり

後拾遺集・夏
ほととぎす夜ふかき聲をきくのみぞ物思ふ人のとり所なる

後拾遺集・秋
ふるさとは浅茅が原と荒れ果てて夜すがらの音をのみぞなく

後拾遺集・恋
おもひあまりいひいづる程に數ならぬ身をさへ人にしられぬるかな

後拾遺集・恋
しほたるるわが身のかたはつれなくてこと浦にこそ煙たつなれ

後拾遺集・恋
おもひわび昨日やまべに入りしかどふみみぬ道はゆかれざりけり

後拾遺集・恋
逢ふことはさもこそ人めかたからめ心ばかりはとけてみえなん

後拾遺集・恋
嬉しとも思ふべかりし今日しもぞいとど歎きのそふ心地する

後拾遺集・恋
逢ひ見しを嬉しきことと思ひしは帰りて後の歎きなりけり

後拾遺集・恋
夜な夜なは目のみ覚めつつ思ひやる心やゆきて驚かすらん

後拾遺集・雑歌
わするなよわするときかばみ熊野の浦の浜木綿恨みかさねむ

後拾遺集・雑歌
忘れじといひつる中は忘れけり忘れむとこそいふべかりけれ

後拾遺集・雑歌
ものいはで人の心をみるほどにやがてとはれでやみぬべきかな

後拾遺集・雑歌
名に高き錦の浦をきてみればかづかぬあまはすくなかりけり

詞花集・春
たまさかにわが待ちえたるうぐひすの初音をあやな人やきくらむ

詞花集・春
春ごとに見る花なれど今年より咲きはじめたる心地こそすれ

詞花集・夏
山里のかひこそなけれほととぎす都の人もかくや待つらむ

詞花集・秋
春雨の綾おりかけし水の面に秋は紅葉の錦をぞ敷く

詞花集・恋
山櫻つひに咲くべきものならば人の心をつくさざらなむ

詞花集・恋
辛さをば君にならひて知りぬるを嬉しきことを誰にとはまし

詞花集・恋
ほどもなく暮るると思ひし冬の日のこころもとなき折もありけり

詞花集・雑歌
みやこにて ながめし月の もろともに 旅の空にも いでにけるかな

千載集・春
よそにてぞ聞くべかりけるさくら花めのまへにても散らしつるかな

千載集・夏
あやしきは待つ人からかほととぎす鳴かぬにさへもぬるる袖かな

千載集・秋
花すすきまねくはさがと知りながらとどまるものは心なりけり

千載集・離別
もろともにゆく人もなき別れ路に涙ばかりぞとまらざりける

千載集・雑歌
なにごともかはりゆくめる世の中にむかしながらの橋柱かな

千載集・雑歌
かくてだになほあはれなる奥山に君こぬ夜々をおもひしらなん

千載集・雑歌
あやしくも花のあたりに臥せるかな折らばとがむる人やあるとて

新古今集・春
白雲のたつたの山の八重桜いづれを花とわきて折らまし

新古今集・離別
別路はこれや限のたびならむ更にいくべきここちこそせね

新古今集・雑歌
世をそむく所とかきく奥山はものおもふにぞ入るべかりける

新古今集・雑歌
いつとなくをぐらの山のかげを見て暮れぬと人の急ぐなるかな

続後撰集・雑歌
思ひきや 世ははかなしと いひながら 君が形見に 花をみむとは