僧都覚雅
かげみえぬ君は雨夜の月なれや出でても人に知られざりけり
大納言道綱
たなばたに今朝引く糸の露をおもみ撓むけしきを見でややみなむ
隆縁法師
身のほどを思ひ知りぬることのみやつれなき人のなさけなるらむ
左衛門督家成
わびつつもおなじ都はなぐさめき旅寝ぞ恋のかぎりなりける
源重之
風をいたみ岩うつ波のおのれのみ砕けてものを思ふころかな
修理大夫顕季
わが恋は吉野の山の奥なれや思ひいれども逢ふ人もなし
平祐挙
胸は富士袖は清見が関なれや煙も波も立たぬ日ぞなき
藤原永実
いたづらに千束朽ちにし錦木を猶こりづまにおもひたつかな
道命法師
山櫻つひに咲くべきものならば人の心をつくさざらなむ
源家時
霜置かぬ人の心はうつろひて面がはりせぬ白菊の花
返し 大納言公実
白菊のかはらぬいろも頼まれずうつろはでやむ秋しなければ
藤原顕綱朝臣
くれなゐの濃染の衣うへにきむ恋の涙の色隠るやと
源道済
しのぶれど涙ぞしるきくれなゐに物思ふ袖は染むべかりけり
源雅光
くれなゐに涙の色もなりにけり変るは人の心のみかは
平実重
恋ひ死なむ身こそおもへば惜しからね憂きも辛きも人の咎かは
道命法師
辛さをば君にならひて知りぬるを嬉しきことを誰にとはまし
藤原道信朝臣
嬉しきはいかばかりかは思ふらむ憂きは身にしむものにぞありける
心覚法師
恋すれば憂き身さへこそ惜しまるれおなじ世にだに住まむとおもへば
大中臣能宣朝臣
みかきもり衛士の焚く火の夜は燃え昼は消えつつものをこそおもへ
よみ人しらず
わが恋やふたみかはれる玉くしげいかにすれども逢ふかたもなき
藤原範永朝臣
こほりして音はせねども山川の下は流るるものと知らずや
藤原親隆朝臣
風ふけば藻鹽の煙かたよりに靡くを人の心ともがな
崇徳院御製
瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれてもすゑにあはむとぞ思ふ
曾禰好忠
播磨なる飾磨に染むるあながちに人を恋ひしと思ふころかな
道命法師
ほどもなく暮るると思ひし冬の日のこころもとなき折もありけり
中納言俊忠
恋ひわびてひとり伏せ屋に夜もすがら落つる涙や音無の瀧