和歌と俳句

詞花和歌集

曾禰好忠
なにごともゆきて祈らむと思ひしに神無月にもなりにけるかな

曾禰好忠
ひさぎおふる澤邊の茅原冬くればひばりの床ぞあらはれにける

大弐資通
こずゑにてあかざりしかばもみぢ葉のちりしく庭をはらはでぞみる

左衛門督家成
いろいろにそむる時雨にもみぢ葉はあらそひかねて散りはてにけり

大江嘉言
山ふかみ落ちてつもれるもみぢ葉のかはけるうへに時雨ふるなり

惟宗隆頼
いまさらにをのがすみかを立たじとて木の葉の下にをしぞなくなる

惟宗隆頼
風ふけは楢のうら葉のそよそよといひあはせつついづち散るらむ

曾禰好忠
外山なる柴の立枝に吹く風の音きくをりぞ冬はものうき

よみ人しらず
秋はなほ木の下かげも暗かりき月は冬こそみるべかりけれ

左京大夫道雅
もろともに山めぐりする時雨かなふるにかひなき身とはしらずや

瞻西法師
いほりさす楢の木かげにもる月のくもるとみれば時雨ふるなり

平兼盛
深山にはあらしやいたく吹きぬらむ網代もたわに紅葉つもれり

藤原長能
あられふる交野の御野の狩ころも濡れぬ宿かす人しなければ

大蔵卿匡房
山ふかみ焼く炭竃の煙こそやがて雪げの雲となりけれ

藤原義忠朝臣
年をへて吉野の山にみなれたる目にめづらしき今朝の初雪

大江嘉言
ひぐらしに山路のきのふしぐれしは富士の高嶺の雪にぞありける

大蔵卿匡房
奥山の岩垣もみぢ散りはてて朽ち葉がうへに雪ぞつもれる

関白前太政大臣忠通
くれなゐに見えしこずゑも雪ふれば白木綿かくる神無備の森

和泉式部
まつ人の今もきたらばいかがせむ踏ままく惜しき庭のかな

成尋法師
かずならぬ身にさへ年のつもるかな老は人をもきらはざりけり

曾禰好忠
魂まつる年のをはりになりにけり今日にやまたもあはむとすらむ