和歌と俳句

平兼盛

十一 十二

天の川 かきせの霧の なかわけて ほのかに見えし 月のこひしさ

恋ひしくば 川瀬の霧の 夜をこめて たちかへらずぞ 明かしはてまし

あな恋ひし 雲間の月に 人をみて おもかげにのみ そへるころかな

ひとり寝に あまたの冬を 経ぬるかな 身をひとしもに おもひおかれて

冬の夜の 袖のこほりの こりすまに 恋ひしきときは ねをのみぞなく

もの思ひて よにふる雪の わびしきは つもりつもりて 消えぬばかりぞ

しらやまの 雪のしたくさ われなれや 下に萌えつつ 年をのみ経る

わするとは うらみざらなむ 嘴鷹の とかへる山の しひ葉もみじす

あさしとは うらみざらなむ わたつ海の 恋ふればいとど おきになるみを

言の葉を なげなるものと 思ひせば 何かは人の つらくしもあらむ

難波潟 みぎはのあしの 追風に うらみてぞふる 人の心を

後拾遺集・恋
難波潟 みぎはのあしの おいのよに うらみてぞふる 人の心を

つらけれど なほぞ恋ひつる 水無瀬川 うけもひかれぬ 身とはしるしる

あしひきの 山のかけはし 久しくも なげきこりつつ 渡りぬるかな

かみなびの 山の沢水 君なれや あさましくのみ みえしわたれは

うゑしより 枝のみまさる なげきとて 頼めばもとに 雨ぞふりける

拾遺集・冬
見わたせば 松の葉白き 吉野山 幾世積もれる 雪にかあるらん

君が代の 数ともとらむ 紀ノ國の しららの浜に つめるいさこを

難波江に しげれる蘆の めもはるに おほくのよをば 君にとぞ思ふ

須磨の浦に あさりするあまの おほかたは かひある世とぞ 思ふばらなる

後拾遺集・賀
朽ちもせぬ 長柄の橋の 橋柱 久しきほどの 見えもするかな