はるかにぞ 花みにきつる をみなへし あだなる露に うつろふなゆめ
うかひする 川辺に年を おくりつつ 憂き世の中を 知らでこそふれ
はるあきも 知らで年ふる わが身かな 松と竹との 年をかぞへて
後拾遺集・賀
春も秋も 知らで年ふる わが身かな 松と鶴との 年をかぞへて
年を経て 菊のした水 見てしより 老いといふこと 知らでこそふれ
恋ひしとは いへばさらなり 水の上に 降り積む雪と 人は知らなむ
詞花集・恋
忘るやと ながらへゆけど 身にそひて 恋しきことは 遅れざりけり
待つ人を こずゑに高き なぎさこそ 風にわづらふ 身ともなるらめ
おもふてふ ことのよにだに ふりさらば 我がいへること 君にいはまし
大空に たなびく雲の めにちかく おりゐると見ば 我はたのまむ
みちのくの 安達ケ原の しらまゆみ こころつよくも 見ゆる君かな
後撰集・春
けふよりは 荻のやけ原 かきわけて 若菜つみにと 誰をさそはん
拾遺集・春
我が宿の 梅の立ち枝や 見てつらん 思ひの外に 君が来ませる
拾遺集・春
花の木を 植へしもしるく 春来れば 我が宿過ぎて 行人ぞなき
拾遺集・夏
あやしくも 鹿の立ちどの 見えぬ哉 小倉の山に 我や来ぬらん
拾遺集・秋
暮れてゆく 秋の形見に 置く物は 我が元結の 霜にぞ有ける
拾遺集・冬
時雨ゆく かづく袂を よそ人は 紅葉を払ふ 袖かとや見ん
拾遺集・冬
ふしづけし 淀の渡を 今朝見れば とけん期もなく 氷しにけり
拾遺集・冬
山里は 雪降りつみて 道もなし 今日来む人を あはれとは見む
拾遺集・冬
人はいさ 犯しやすらん 冬来れば 年のみ積もる 雪とこそ見れ