和歌と俳句

藤原実方

拾遺集・夏
五月闇倉橋山の郭公おぼつかなくも鳴きわたるかな

拾遺集・恋
我がためはたな井の清水ぬるけれど猶かきやらむさてはすむやと

拾遺集・恋
人目をもつつまぬ物と思ひせば袖の涙のかからましやは

拾遺集・恋
時の間も心はそらになるものをいかで過ぐしし昔なるらむ

拾遺集・恋
何せむに命をかけて誓ひけんいかばやと思ふ折もありけり

拾遺集・雑春
年を経てみ山隠れの郭公聞く人もなき音をのみぞ鳴く

拾遺集・哀傷
今日よりは露の命も惜しからず蓮の上の玉と契れば

後拾遺集・哀傷
うたゝねのこの世の夢のはかなきにさめぬやがての命ともがな

後拾遺集・哀傷
契りありてこの世にまたは生まるとも面変りして見もや忘れむ

後拾遺集・哀傷
見むといひし人ははかなく消えにしをひとり露けき秋の花かな

後拾遺集・恋小倉百人一首
かくとだにえやはいぶきのさしもぐささしも知らじな燃ゆる思ひを

後拾遺集・恋
浦風になびきにけりな里のあまの焚く藻のけぶり心よはさは

後拾遺集・恋
忘れずよまた忘れずよかはらやの下焚くけぶり下むせびつつ

後拾遺集・雑歌
わりなしや身はこゝのへのうちながらとへとは人の恨むべしやは

後拾遺集・雑歌
あしひきの山井の水は氷れるをいかなる紐のとくるなるらむ

後拾遺集・雑歌
やすらはで思ひ立ちにし東路にありけるものかはらからの関

後拾遺集・雑歌
みちのくの安達の真弓君にこそ思ひためたることも語らめ

後拾遺集・雑歌
忘られぬ人の中には忘れぬを待つらん人の中に待つやは

後拾遺集・俳諧
まだ散らぬ花もやあるとたづねみんあなかましばし風に知らすな