和歌と俳句

拾遺和歌集

恋二

よみ人しらず
春の野におふるなき名のわびしきは身をつみてだに人の知らぬよ

よみ人しらず
なき名のみたつたの山のあをつづら又くる人も見えぬ所に

人麿
無き名のみたつの市とはさわげどもいさまた人をうるよしもなし

よみ人しらず
なき事をいはれの池のうきぬなは苦しき物は世にこそありけれ

人麿
竹の葉におきゐる露のまろびあひて濡るとはなしに立つわが名かな

よみ人しらず
あぢきなや我が名はたちて唐衣身にもならさでやみぬべきかな

よみ人しらず
唐衣我はかたなのふれなくにまづたつ物はなき名なりけり

源重之
そめ河に宿かる浪の早ければなき名立つとも今は怨みじ

よみ人しらず
こはた河こはたがいひし言の葉ぞ無き名すすがむ瀧つ瀬もなし

藤原忠房朝臣
君が名の立つに咎なき身なりせばおほよそ人になして見ましや

よみ人しらず
夢かとも思ふべけれどねやはせじ何ぞ心に忘れがたきは

よみ人しらず
夢よゆめ恋ひしき人に逢ひ見すな覚めての後にわびしかりけり

権中納言敦忠
あひ見ての後の心に比ぶれば昔は物も思はざりけり

坂上是則
逢ひ見てはなぐさむやとぞ思ひしを名残りしもこそ恋ひしかりけれ

よみ人しらず
あひ見てもありにしものをいつの間に習ひて人の恋ひしかるらん

よみ人しらず
わが恋は猶あひ見ても慰まずいやまさりなる心地のみして

能宣
逢ふ事を待ちし月日のほどよりも今日のくれこそ久しかりけれ

貫之
暁のなからましかば白露のおきてわびしき別せましや

貫之
あひ見ても猶なぐさまぬ心かな幾ちよねてか恋のさむべき

人麿
むばたまのこよひな明けそ明けゆかば朝ゆく君を待つくるしきに