和歌と俳句

藤原伊尹

拾遺集・恋
大原の神も知るらむわが恋はけふ氏人の心やらなむ

拾遺集・恋
隠れ沼の底の心ぞうらめしきいかにせよとてつれなかるらん

拾遺集・恋小倉百人一首
あはれとも いふべき人は おもほえで 身のいたづらに なりぬべきかな

拾遺集・雑春
花の色はあかず見るとも鴬のねぐらの枝に手ななふれそも

拾遺集・雑賀
くればとく行きてかたらむ逢ふことのとをちの里の住み憂かりしも

拾遺集・哀傷
いにしへはちるをや人の惜みけん花こそ今は昔こふらし

新古今集・恋
から衣袖にひとめはつつめどもこぼるるものは涙なりけり

新古今集・恋
あら玉の年にまかせて見るよりはわれこそ越えめ逢坂のせき

新古今集・恋
春風の吹くにもまさるなみだかなわがみなかみも氷解くらし

新古今集・恋
水の上に浮きたる鳥のあともなくおぼつかなさを思ふ頃かな

新古今集・恋
つらけれど恨みむとはたおもほえずなほ行くさきを頼む心に

新古今集・恋
かぎりなく結びおきつる草まくらいつこのたびをおもひ忘れむ

新古今集・恋
思ひ出でて今は消ぬべし夜もすがらおきうかりつる菊のうへの露

新古今集・恋
別れては昨日今日こそ隔てつれ千世しも経たる心地のみする

新古今集・恋
人知れぬねざめの涙ふり落ちてさもしぐれつる夜半の空かな

新古今集・恋
長き世の尽きぬ歎きの絶えざらばなににいのちをかへて忘れむ

新勅撰集・羈旅
ゆくひとを とどめかねてぞ うりふやま みねたちならし しかもなくらん

新勅撰集・恋
たとふれば つゆもひさしき よのなかに いとかくものを おもはずもがな

新勅撰集・恋
つゆよりも いかなる身とか なりぬらん おきどころなき けさのこころは

新勅撰集・恋
とりのねに いそぎいでにし つきかげの のこりおほくて あけしそらかな

新勅撰集・恋
おもへばや したゆふひもの とけつらん われをばひとの こひしものゆへ

新勅撰集・恋
こひしきを ひとにはいはで しのぶぐさ しのぶにあまる いろをみよかし

新勅撰集・雑歌
おりきつる くものうへのみ こひしくて あまつそらなる ここちこそすれ

新勅撰集・雑歌
しらつゆは むすびやすると はなすすき とふべきのべも みえぬあきかな