和歌と俳句

新古今和歌集

恋三

太宰帥敦道親王
秋の夜の有明の月の入るまでにやすらひかねて帰りにしかな

道信朝臣
心にもあらぬかが身の行きかへり道の空にて消えぬべきかな

醍醐天皇御歌
はかなくも明けにけるかな朝露のおきての後ぞ消えまさりける

御返し 更衣源周子
朝露のおきつる空もおもほえず消えかへりつる心まどひに

圓融院御歌
置き添ふる露やいかなる露ならむ今は消えねと思ふわが身を

謙徳公
思ひ出でて今は消ぬべし夜もすがらおきうかりつる菊のうへの露

清慎公
うばたまの夜の衣をたちながらかへるものとは今ぞ知りぬる

藤原清正
みじか夜ののこりすくなく更け行けばかねてもの憂き有明の空

大納言清蔭
明くといへばしづ心なき春の夜の夢とや君を夜のみは見む

和泉式部
今朝はしも歎きもすらむいたづらに春の夜ひと夜夢をだに見で

赤染衛門
心からしばしとつつむものからに鴫のはねがきつらき今朝かな

九條入道右大臣師輔
わびつつも君が心にかなふとて今朝も袂をはしぞわづらふ

亭子院御歌
手枕にかせる袂の露けさは明けぬと告ぐるなみだなりけり

藤原惟成
しばし待てまだ夜は深し長月の有明の月は人まどふなり

実方朝臣
起きて見ば袖のみ濡れていとどしく草葉の玉の數やまさらむ

二條院讃岐
明けぬれどまだきぬぎぬになりやらで人の袖をも濡らしつるかな

西行法師
おもかげの忘らるまじきわかれかななごりを人の月にとどめて

摂政太政大臣良経
またも来む秋をたのむの雁だにもなきてぞ帰る春のあけぼの

賀茂成助
誰行きて君に告げまし道芝の露もろともに消えなましかば

左大将朝光
消えかへり有るか無きかのわが身かなうらみて帰る道芝の露