和歌と俳句

伊勢大輔

後拾遺集・春
人はみな野邊の小松を引きにゆくけふの若菜は雪やつむらむ

後拾遺集・春
卯づゑつきつままほしきは玉さかに君が飛火のわかななりけり

後拾遺集・夏
うの花のさけるかきねは白浪の立田の川のゐぜきとぞみる

後拾遺集・夏
ききつともきかずともなくほととぎす心まどはす小夜のひとこゑ

後拾遺集・夏
けふもけふあやめもあやめ変らぬに宿こそありし宿とおぼえね

後拾遺集・夏
みなかみもあらぶる心あらじかし浪もなごしのみそぎしつれば

後拾遺集・秋
さよふかく旅の空にてなくかりはおのが羽風や夜寒なるらん

後拾遺集・秋
おきあかし見つつながむる萩の上の露ふきみだる秋の夜の風

後拾遺集・秋
小夜更けてこころしてうつ聲きけば急がぬ人もねられざりけり

後拾遺集・秋
めもかれず見つつくらさん白菊の花より後の花しなければ

後拾遺集・秋
秋の夜は山田のいほに稲妻の光のみこそもりあかしけれ

後拾遺集・賀
君みればちりもくもらでよろづ代のよはひをのみもます鏡かな

後拾遺集・哀傷
ふかさこそ藤のたもとはまさるらめ涙はおなじ色にこそしめ

後拾遺集・哀傷
別れにしその日ばかりは巡りきて生きもかへらぬ人ぞこひしき

後拾遺集・哀傷
思ひやるあはれなにはのうらさびて蘆の浮き寝はさぞながれけむ